潮騒が遠くで囁き、陽光が砂浜を温かく照らす午後。
足元に広がるのは、無数の丸みを帯びた石と、細かくきらめく貝殻の破片たち。
そんなありふれた浜辺の風景の中に、ふと目を引く白さを見つけることがあります。
それは、まるで白い小舟のような形をした、少しざらついた質感の物体。
近づいてよく見れば、それはこの地の海で生きていたモンゴウイカの、役目を終えた甲羅なのです。
都会の喧騒の中で暮らす人々にとって、それはただの珍しい拾い物かもしれません。
けれど、この土地で育ち、この海を見てきた者にとって、それは単なる物体以上の意味を持ちます。
潮の流れに乗ってはるばる遠い海から辿り着き、静かに砂浜に横たわるイカの甲羅。
それは、この豊かな海が育んだ生命の証であり、悠久の時の流れを物語る小さな化石のようです。
風が砂を運び、波が優しく洗い去る中で、この白い甲羅は、過ぎ去った季節の記憶をそっと語りかけてくるようです。
荒々しい冬の海を乗り越え、春の穏やかな陽光を浴び、そして夏の生命の息吹を感じてきたのでしょうか。
都会のコンクリートジャングルでは感じることのできない、自然の力強さと、その中で生きるものの儚さ。
打ち上げられた一つのイカの甲羅が、この土地のありのままの風情を、静かに、そして深く伝えてくれるのです。
もしあなたがこの砂浜を訪れたなら、ぜひ足元の白い小さな舟に目を留めてみてください。
それは、この土地の海が持つ、奥ゆかしい物語のほんの一端なのですから。


