もしイケス(生け簀)で育った養殖魚や、長く水槽で飼っていた魚を「かわいそうだから」と
海に放流したら、その魚はどうなると思いますか?
- 「広い海で自由に泳げて幸せだろう」
- 「きっと野生の仲間たちと群れになれるはず」
- 「自然に帰れて良かった」
多くの方が、そんなポジティブなイメージを持つかもしれません。 しかし現実は、私たちが想像するよりもずっと過酷です。
今回は、養殖・飼育環境で育った魚が、野生の海で直面する「3つの厳しい現実」について解説します。
現実①:最大の壁。「エサの獲り方」を知らない
私たち人間も、いきなり無人島に放り出されて「自力で食料を確保しろ」と言われたら途方に暮れますよね。
魚も同じです。
【養殖・飼育魚の常識】
- 決まった時間になると、決まった場所(水面や水中)に「エサ(配合飼料)」が降ってくる。
- 「人影」=「エサをくれる存在」と認識している。
- エサは勝手に口に入るか、少し探せば見つかる。
【天然魚の常識】
- エサは自分で探すもの。
- エサ(小魚、エビ、ゴカイなど)は生きているし、必死で逃げる。
- 「人影」=「天敵かもしれない危険な存在」と認識している。
育った環境が違えば、常識も全く違います。
放流された養殖魚は、「海中にいる動くものを、追いかけて捕食する」という狩りの方法を知りません。
最初は体力があるため泳ぎ回れますが、エサの獲り方が分からないため、やがて体力を消耗し、
餓死してしまうリスクが非常に高いのです。
現実②:「仲間」には入れない。群れから排除される
「同じ魚なんだから、仲間の群れにスッと合流できるのでは?」 そう思うかもしれませんが、
これも非常に困難です。
野生の群れは、見た目や行動が少し違う「異物」に敏感です。
- 見た目の違い: 狭いイケスや水槽で育ったため、ヒレが擦れていたり、丸みを帯びていたりすることがあります(ヒレがピンと張っていない)。また、体色も天然魚と微妙に異なる場合があります。
- 行動の違い: 養殖魚は、天敵に対する警戒心が極端に薄いです。天然魚の群れが「敵だ!」と一斉に逃げるような状況でも、一匹だけキョトンとしている…といった行動のズレが生じます。
このような「異質な個体」は、群れにとって目立つ存在となり、結果として群れ全体を危険にさらすことになります。
そのため、群れに受け入れてもらえないか、群れから排除されてしまう可能性が高いのです。
現実③:すぐに「釣られる」か「食べられる」
これが、放流された魚が直面する最も直接的な脅威かもしれません。
1. 警戒心がゼロで、人間に寄っていく
前述の通り、養殖魚は「人影=エサ」と刷り込まれています。
そのため、釣り人がいる堤防や、釣り船の影に、自ら喜んで寄っていってしまうことさえあります。
釣り人からすれば、警戒心ゼロで目の前に現れた魚です。
「イケスの周り」や「養殖イカダの近く」が、しばしば「よく釣れるポイント」となるのは、
こうした養殖魚(あるいはイケスから逃げ出した脱走魚)が非常に釣りやすいためです。
2. 天敵から逃げる方法を知らない
野生の海は、常に弱肉強食の世界です。
青物、サワラ、ヒラメ、根魚、そして鳥類など、多くのフィッシュイーター(魚食性動物)が常に獲物を探しています。
天然魚は、天敵の気配を察知すると、瞬時に岩陰に隠れたり、全速力で逃げたりする術を、
生まれた時から学んでいます。
しかし、養殖魚はそのような「死の危険」にさらされて育っていません。
泳ぎも天然魚に比べて遅く、逃げるべきタイミングも知らないため、真っ先に天敵の標的となり、
簡単に捕食されてしまいます。
結論:安易な放流は「優しさ」ではない
「かわいそう」という人間の感情で養殖魚や飼育魚を海に放つことは、一見優しさのように見えます。
しかし、その実態は、**「狩りの方法も、仲間の見つけ方も、敵からの逃げ方も知らない魚を、
いきなり戦場に放り出す」**行為に他なりません。
さらに言えば、その地域にもともと生息していない魚種を放流した場合、生態系を壊す
「遺伝的かく乱」や「外来種問題」を引き起こす可能性さえあります。
もし飼育している魚なら、責任を持って最後まで飼育する。 養殖の魚であれば、命に感謝して美味しくいただく。
それが、私たち人間にできる、命に対する誠実な向き合い方と言えるでしょう。
【まとめ】
- 養殖魚はエサの獲り方を知らないため、餓死のリスクが高い。
- 見た目や行動が違うため、野生の群れには入れない可能性が高い。
- 警戒心がなく、すぐに釣られるか、天敵に捕食されてしまう。
- 安易な放流は、魚にとって幸せな結果を招かない。

【ハッシュタグ】 #養殖魚 #放流 #養殖魚と天然魚の違い #釣太郎 #釣り知識 #生態系 #脱走魚 #魚の習性 #和歌山釣り #南紀

