高級料亭や寿司店で、上品な白身に上質な脂がとろける「サワラの西京焼き」や「サワラの炙り」。
一切れ数千円することも珍しくない、誰もが知る高級魚です。
一方、漁港の食堂や釣り人の食卓では、「今日の賄いはサゴシの塩焼きか」
「サゴシが入れ食いだったから唐揚げにしよう」と、日常のおかずとして気兼ねなく
親しまれる魚、「サゴシ」。
実はこの2匹、全く同じ魚の、大人と子供だということをご存知でしょうか?
なぜ、同じ魚が成長するだけで、これほどまでに市場での価値や扱われ方が変わるのか。
今回は、出世魚サワラの生態と、浜(漁業関係者の現場)の価値観からその謎を解き明かしていきます。
「サゴシ」と「サワラ」は呼び名が変わる出世魚
サワラはスズキ目サバ科に属する魚で、ブリやスズキと同じく、成長するにつれて
呼び名が変わる「出世魚」です。
その呼び名は地域によって多少異なりますが、一般的にはサイズで区別されます。
- ~50cm: サゴシ(サゴチ)
- 50cm~70cm: ナギ or ヤナギ
- 70cm~: サワラ
スーパーでよく見かける一本数十cmのものが「サゴシ」、メーター近い大物が「サワラ」として
流通している、とイメージすると分かりやすいでしょう。
なぜ成魚と幼魚でこれほど価値が変わるのか?
では、本題です。
なぜ「サゴシ」は日常のおかずで、「サワラ」は高級魚なのでしょうか。その理由は主に3つあります。
1. 圧倒的な「脂の乗り」の違い
これが価値を分ける最大の理由です。
幼魚であるサゴシの身は、水分が多く淡白でさっぱりしています。
悪く言えば少しパサつきやすいのが特徴です。
一方、成長してサワラになると、特に秋から冬にかけての「寒鰆」は、全身にきめ細かく
上質な脂が乗り、全く別の魚と言えるほど味わいが濃厚になります。
このとろけるような脂の旨味が、高級魚としての価値を生み出しているのです。
2. 身の厚さと料理の幅
サゴシは体が細いため、切り身にしても薄く、料理の幅が限られます。
しかし、サワラクラスになると分厚く立派な切り身が取れます。
これにより、味の根幹である「脂」を活かした刺身、たたき、炙り、西京焼きなど、
高級料理の主役を張れるようになるのです。
3. 漁獲量と希少性
サゴシは群れで行動することが多く、特に秋になると堤防からでも数釣りが楽しめるほど接岸します。
漁獲量も安定しているため、市場価格は比較的安価になります。
対して、メーターを超えるような**大型のサワラは数が少なく、釣り上げる(漁獲する)のも難しくなります。
この希少性が、サワラの価値をさらに高めているのです。
サゴシは最高の「おかず魚」!
価値が低いと聞くと「サゴシは美味しくないの?」と
思われるかもしれませんが、決してそんなことはありません。
「賄い用」というのは、プロである漁師たちが「毎日食べても飽きない、気取らない美味さ」
を知っている証拠です。
サゴシの淡白な身質は、火を通す料理で真価を発揮します。
- 塩焼き: シンプルに旨味を味わえる定番。
- 唐揚げ・フライ: ふっくらした白身が絶品。
- 南蛮漬け: さっぱりした身に甘酢がよく合います。
- ムニエル: バターとの相性も抜群です。
まとめ:成長がもたらす価値の変化を楽しもう
サワラとサゴシの価値の違いは、主に**「脂の乗り」「身の厚さ」「希少性」**という3つの要素から生まれます。
若くさっぱりとした味わいの「サゴシ」と、成熟して濃厚な旨味を蓄えた「サワラ」。
どちらが良い悪いではなく、それぞれに違った魅力があります。
スーパーで「サゴシ」の切り身を見かけたら、それは将来の高級魚の若き姿です。
ぜひ今夜のおかずとして、そのさっぱりとした上品な味わいを楽しんでみてはいかがでしょうか。
その背景を知ることで、いつもの塩焼きが少し違って見えるかもしれません。


