海岸を歩いていると、ペットボトルや食品の袋に混じって、写真のような太いロープや
漁網の切れ端が打ち上げられているのを目にしたことはありませんか?
多くの人が「また釣り人がポイ捨てしたのかな」と、レジャーを楽しむ釣り人のマナーを
思い浮かべるかもしれません。
しかし、そのイメージは、海洋ごみ問題のほんの一面しか捉えていません。
データに基づくと、**海洋ごみの大部分を占めているのは、実は「漁業」で使われる道具、
すなわち「漁具」**なのです。
今回は、この不都合な真実に光を当て、海洋ごみ問題の根本原因と、私たちが本当に向き合うべき
課題について解説します。
データが語る不都合な真実:海洋ごみの半分以上が「漁具」
「釣り人のゴミも確かにある。
でも、漁具の量が圧倒的に多い」 これは、海洋ごみ問題を調査している専門家たちの共通認識です。
実際に、環境省やWWFジャパンが公表しているデータは衝撃的な内容を示しています。
- 日本の海岸に漂着するプラスチックごみのうち、漁具は重量比で59.3%を占める(環境省調査)
- 北太平洋の巨大なごみの塊「太平洋ごみベルト」で回収されたごみのうち、75~86%が漁具だった(国際NGO The Ocean Cleanup調査)
- 世界全体で、年間50万~100万トンもの漁具が、海へ流出していると推定されている
これらのデータが示すのは、レジャー釣りで発生するゴミ(釣り糸やエサの袋など)とは
比較にならないほど、大規模かつ大量の漁具が海洋ごみの中核をなしているという事実です。
海のサイレントキラー「ゴーストギア」と「幽霊漁業」の恐怖
海に流出した漁具が特に問題視されるのは、それが「ゴーストギア(幽霊漁具)」と化すからです。
ゴーストギアとは、海中に放置されたり、流失したりした漁網やカゴ、ロープなどのことです。
これらはプラスチック製で非常に丈夫なため、何十年、何百年と海中を漂い続けます。
そして最も恐ろしいのが、ゴーストギアが引き起こす「ゴーストフィッシング(幽霊漁業)」という現象です。
誰にも管理されることなく海を漂う漁網は、本来の役目を終えた後も、魚やカメ、イルカ、
クジラといった海洋生物を無差別に絡め取り、捕獲し、死に至らしめ続けます。
まさに、海の「サイレントキラー」と言えるでしょう。
このゴーストフィッシングは、海の生態系を破壊するだけでなく、水産資源の減少を招き、
結果的に漁業そのものにも打撃を与えるという悪循環を生んでいます。
なぜ漁具は海に流出するのか?
では、なぜこれほど大量の漁具が海に流出してしまうのでしょうか。
悪質な不法投棄もゼロではありませんが、主な原因はもっと複雑です。
- 悪天候による流失:台風や嵐によって、設置していた網や養殖いかだが破損・流失する。
- 操業中のトラブル:網が海底の岩に引っかかり、切断せざるを得なくなる(根掛かり)。
- 意図しない紛失:ブイやロープが切れ、カゴなどの漁具がどこに行ったかわからなくなる。
漁業者の方々も、生活の糧である大切な漁具をわざと失いたいわけではありません。
しかし、厳しい自然環境の中でのアクシデントや、劣化した漁具の処理コストの問題などが
絡み合い、結果として大量のゴーストギアを生み出す構造的な課題が存在するのです。
私たちに何ができるのか?問題解決への道すじ
この深刻な問題に対し、すでに対策は始まっています。
- 漁業者の取り組み:操業中に回収した海洋ごみを持ち帰る「フィッシング・フォア・リッター」活動や、自分の漁具に目印をつけるなどの管理強化。
- 技術開発:海中で自然に分解される「生分解性プラスチック」製の漁網や釣り糸の開発。
- アップサイクル:回収した漁網をリサイクルし、バッグや衣服、アクセサリーといった新たな製品に生まれ変わらせる取り組み。
私たち一人ひとりができることもあります。 まず、「海洋ごみ=釣り人のマナー」という単純なイメージを捨てること。
そして、問題の根源にある、より大きな産業構造に目を向けることが重要です。
その上で、ビーチクリーン活動に参加したり、海洋ごみ問題に取り組む団体を支援したり、
リサイクル製品を選ぶなど、消費者としての行動を変えていくことが求められています。
まとめ:真実を知り、正しく問題と向き合う
海岸に打ち上げられた一本のロープ。
その背景には、レジャーのポイ捨て問題だけでは片付けられない、漁業とプラスチックごみが絡み合った、根深く深刻な現実があります。
もちろん、釣り人一人ひとりがゴミを持ち帰ることは、絶対に守られるべきマナーです。
しかし、それと同時に、私たちは海洋ごみ問題の真の姿をデータで理解し、ゴーストギアという
サイレントキラーの存在を広く知らせていかなければなりません。


