バリコとは、アイゴ(学名:Siganus fuscescens)の幼魚の呼び名で、特に関西や和歌山でよく使われる地方名です。
成長すると30cm前後になる磯魚で、背びれや腹びれに鋭い毒棘を持ちます。
この毒棘が釣り人には厄介で、うっかり刺されると激痛に襲われるため「嫌われ魚」として有名です。
さらに、アイゴは食性が草食性寄りで、海藻や海草を主に食べているため、腸内に強烈な臭いを持っています。
釣った直後に腹を開けると「磯臭い」「アンモニア臭い」と形容される独特の臭気を放ち、これが原因でリリースされることが多いのです。
しかし、日本各地には「バリコ(アイゴ)を食べる文化」が残っています。
臭い魚として知られる一方で、処理や調理方法を工夫し、地域の食卓に根付いてきたのです。
沖縄県|スク文化の中心
沖縄では、アイゴは「スク」と呼ばれます。
特に稚魚のアイゴは「スクガラス」という伝統料理に欠かせない存在です。
・スクは7月頃の大潮に沿岸へ押し寄せる稚魚を捕獲し、塩漬けにして保存します。
・代表的な食べ方は「島豆腐にスクガラスを乗せる」もので、酒の肴として沖縄の家庭で広く親しまれています。
・成魚のアイゴも味噌煮や唐揚げに利用されることがあり、臭みを抜く工夫がなされています。
沖縄では「磯魚=生活の糧」という考えが強く、臭い魚であっても食文化の一部として大切にされています。
奄美大島(鹿児島県)
奄美大島でも、沖縄と同じくアイゴを「スク」と呼び、食べる文化があります。
・稚魚を塩漬けにする「スクの塩辛」は郷土料理のひとつ。
・成魚は味噌煮や唐揚げに調理されることが多い。
・一部地域では祝い事や季節の行事に合わせて食べられることもあります。
奄美でも「臭みをどう処理するか」が重要で、昔から海藻を食べる魚を上手に利用する知恵が受け継がれています。
三重県南部(熊野灘周辺)
三重県南部の熊野灘周辺でも、バリ(アイゴ)を食べる文化が残っています。
・釣り人が塩焼きや煮付けで食べることが多い。
・夏から秋にかけての旬には、家庭料理として並ぶこともある。
・「臭い魚だから捨てる」のではなく「どう工夫して食べるか」を考える地域性が根付いています。
熊野灘は磯魚の種類が豊富な漁場であり、アイゴも地域資源の一つとして活用されています。
和歌山県南紀
和歌山県南紀エリアでも、一部地域ではバリコを食べる習慣が残っています。
・高齢の方や漁師町では「煮付け」「味噌汁」に利用されることがある。
・ただし若い世代は臭みを嫌い、リリースすることが多く、食文化としては徐々に衰退傾向。
・一方で、釣り人の中には「バリコは工夫すれば美味しい」として自宅で調理する人もいます。
紀南地方は磯釣りが盛んで、狙った魚ではなくとも釣れた魚をどう活用するかが文化として残っているのです。
四国地方(高知・愛媛)
四国沿岸でも、アイゴを食べる文化があります。
・高知では「バリ」と呼ばれ、味噌煮や塩焼きで食べられることがあります。
・愛媛県でも郷土料理として残っており、唐揚げや干物にして食卓に並ぶこともあります。
・地域によっては「家庭料理」として扱われ、外で広く流通することは少ないのが特徴です。
磯魚が豊富に獲れる四国でも、アイゴをうまく活用する工夫が根付いています。
バリコ(アイゴ)を美味しく食べるための処理法
バリコを食べる地域では、臭みを抜くための知恵が代々受け継がれてきました。
以下の処理を行うことで、嫌な臭いを抑えられます。
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釣った直後に血抜きする
エラや尾を切ってしっかり血を抜き、海水氷で冷やす。 -
すぐに内臓を取り除く
腸に未消化の海藻が残っていると臭みの原因になる。 -
皮や粘液を取り除く
臭いの元となる体表の粘液はしっかり洗い流すか、皮を引いて調理する。 -
味の濃い調理法を選ぶ
味噌煮、唐揚げ、干物など、臭みを抑えられる料理法が定番。
バリコを食べる地域から見える「日本の魚食文化」
バリコ(アイゴ)は、多くの地域では「臭い」「危険」として敬遠されます。
しかし沖縄・奄美・三重・和歌山・四国などでは、昔から生活の一部として食べられてきました。
・嫌われる魚を工夫して食べる
・捨てずに資源を活用する
・地域ごとの知恵を受け継ぐ
こうした食文化は、日本の漁村の暮らしと深く結びついています。
まとめ
・バリコ(アイゴ)は、全国的には臭い魚として嫌われがち。
・しかし沖縄や奄美では「スク」として塩漬け文化があり、三重・和歌山・四国でも家庭料理として食べられる地域がある。
・臭みの原因は内臓や粘液だが、処理と調理を工夫すれば美味しく食べられる。
バリコは「嫌われ魚」か「ごちそう」か。
それは地域文化と料理人の工夫によって大きく変わるのです。


