潮騒の調べが遠ざかり、代わりに土の匂いが鼻腔をくすぐる。
長い、長い眠りから覚めたように、その竿とリールは、再び陽の光を浴びた。
かつては誰かの熱意を一身に受け止め、幾度となく魚たちの躍動を伝えてきたであろう釣り竿。
潮風に吹かれ、波に洗われ、静かに海底で時を刻んでいた。
その表面には、悠久の時の流れが刻まれたように、微細な貝殻や海藻の痕跡が残る。
まるで、海の記憶をまとい、物語を静かに語りかけてくるようだ。
寄り添うように横たわるリールもまた、潮の満ち引きを見つめてきた。
滑らかな回転は失われ、潮錆がその機構を覆っている。
しかし、その無機質な金属の奥には、かつての釣り人の希望や、大物を釣り上げた時の歓喜が、確かに息づいている。
海藻は、まるで緑色の時間の糸のように絡みつき、彼らが過ごした静寂の深さを物語る。
太陽の光を浴びて、その湿った表面は微かにきらめき、まるで失われた 記憶の断片を映し出しているかのようだ。
再び陸へと引き上げられた竿とリール。
それは、単なる釣り道具ではない。
持ち主の夢や情熱、そして海の壮大な時間が凝縮された、小さな宇宙だ。
これから、彼らはどうなるのだろうか?
再び誰かの手に握られ、新たな魚影を追いかけるのだろうか。
それとも、このまま時の証人として、静かにその存在を語り続けるのだろうか。
ただ、確かに言えることは、彼らが再び陸の鼓動を感じ始めたということ。
潮の香りを遠くに残し、新たな物語のページを開こうとしている。


