堤防や河口で必ずと言っていいほど姿を見かけるボラ。
力強い引きを楽しませてくれるターゲットですが、どうしても「臭い」というイメージがつきまといます。
しかし、ボラが本来持っているポテンシャルは、江戸時代には高級魚として扱われていたほどです。
今回は、なぜボラが臭うのか、その原因を科学的な視点で紐解いていきましょう。
原因1:食性と「幽門(ゆうもん)」の構造
ボラは泥底にある藻類や有機物(デトリタス)を泥ごと吸い込んで食べる「デトリタス食性」を持っています。
砂泥の中には、バクテリアが有機物を分解する過程で発生するガスや、独特の泥臭さが含まれています。
ボラの胃の入り口には「ソロバン玉」とも呼ばれる強力な筋肉質の「幽門」があり、ここで泥と餌をすり潰します。
この食生活そのものが、周囲の環境の匂いをダイレクトに体内に取り込む要因となっているのです。
原因2:脂質に溶け込む「ジオスミン」
川や栄養過多な内湾に生息する藍藻類などは、「ジオスミン」や「2-メチルイソボルネオール」という物質を作り出します。
これはいわゆる「カビ臭」の正体です。
ボラは非常に脂質(脂)が多い魚であり、これらの臭気物質は水よりも脂に溶け込みやすい性質を持っています。
生活環境が汚れていると、その場所の臭いが脂身に蓄積され、加熱した際に強烈な異臭を放つのです。
原因3:粘膜と浸透圧調整
ボラの体表は厚い粘膜で覆われています。 汽水域(淡水と海水が混ざる場所)を行き来するボラにとって、この粘膜は浸透圧を調整するための重要なバリアです。
しかし、この粘膜は周囲の水質汚染やプランクトンの死骸などを吸着しやすい性質も持っています。
「ボラを触ると臭い」と言われるのは、魚体そのものよりも、この粘膜に付着した環境由来の物質が原因であることが多いのです。
美味しく食べるための「見極め」と「処理」
ボラの名誉のために付け加えると、外洋に面した場所や、冬の寒ボラは驚くほど絶品です。
臭いを取り除き、美味しくいただくためのポイントは以下の通りです。
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水質の良い場所で釣る: 潮通しの良い岩礁帯などで釣れた個体は臭みがほとんどありません。
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現場での血抜き: 釣った直後にエラを切り、しっかり血を抜くことで酸化による臭みを防げます。
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皮と粘膜を徹底除去: 臭いの元は皮目や粘膜に集中しています。調理時は皮をしっかり引き、腹膜(黒い膜)を完璧に取り除くのが鉄則です。
ボラは決して「汚い魚」ではなく、その時々の環境を鏡のように映し出す魚です。
科学的な理由を知れば、次に竿を曲げてくれるボラへの見方も少し変わるかもしれません。

