「冬の南紀で釣れる尺アジは、脂が別次元」。
そう感じたことがある人は多いはずです。
刺身にすると白く濁るほど脂がにじみ。
焼けば皮目からジュワッと脂が溢れ出る。
同じマアジなのに。
なぜ冬の南紀尺アジだけ、ここまで異常に脂が乗るのでしょうか。
これは偶然ではありません。
明確な理由があります。
結論から言うと「条件が揃いすぎている」
冬の南紀尺アジが異常に脂を蓄える理由は、
一つではありません。
以下の条件が同時に重なっているからです。
・水温
・黒潮の影響
・ベイトの質
・成長段階
・回遊と居着きの中間的な立ち位置
この組み合わせは、全国的に見てもかなり特殊です。
水温が「脂を溜め込むスイッチ」になる
まず重要なのが冬の水温です。
南紀の冬の海水温は、
概ね15〜18℃前後。
この水温帯は、
アジにとって代謝が落ちすぎず、かつ脂を溜めやすいゾーンです。
・夏ほどエネルギー消費が激しくない
・極端に寒くないため摂餌は継続できる
結果として、
摂取した栄養が「活動」ではなく「脂肪」に回りやすくなります。
寒くなったから脂が乗る。
これは半分正解で、半分は誤解です。
寒すぎると食わない。
南紀の冬は“程よく寒い”。
ここが最大のポイントです。
黒潮が運ぶ「異常に栄養価の高い餌」
南紀といえば黒潮。
この黒潮が、
脂の正体を大量に運んできます。
・カタクチイワシの稚魚
・シラス
・動物プランクトン
・脂質豊富な小型甲殻類
これらは、
すべて脂肪酸を多く含む高エネルギー食です。
特に冬は、
黒潮がやや沖合に離れつつも、
栄養の「余波」が沿岸に残る状態になります。
この状態が、
居着き気味の尺アジにとって最高の環境になります。
尺アジ=「脂を乗せるサイズ」に到達している
サイズの話も重要です。
30cmを超える尺アジは、
すでに成長期のピークを過ぎています。
この段階では、
栄養は主に以下に使われます。
・体力維持
・生殖腺の準備
・脂肪の蓄積
つまり、
「太るフェーズ」に入っているのです。
小型〜中型アジは、
食べた分を成長に回します。
尺アジは、
食べた分を脂に回します。
この違いは非常に大きいです。
回遊魚なのに「半分居着き」になる南紀の冬
本来アジは回遊魚です。
しかし南紀の冬は、
以下の状態になります。
・水温が安定
・餌が豊富
・外敵が減る
このため、
大きな移動をする必要がありません。
移動しない=エネルギー消費が少ない。
それでも餌は豊富。
結果として、
脂が異常なスピードで蓄積されます。
これは、
「回遊魚」と「根魚」の
良いとこ取りの状態です。
なぜ「南紀の冬」だけなのか?
全国を見渡しても、
冬に脂の乗るアジはいます。
しかし南紀の特徴は、
・黒潮の直撃エリア
・冬でも極端に水温が下がらない
・大型サイズが岸近くに残る
この三点が同時に成立することです。
他地域では、
・寒すぎて深場へ落ちる
・餌が減る
・回遊して抜ける
こうした要因で、
「脂のピーク前」にいなくなります。
南紀は、
脂のピークを迎えるまで居続ける。
これが決定的な差です。
刺身が白く濁る理由は「脂質15〜18%」
冬の南紀尺アジは、
脂質含有量が15〜18%に達することもあります。
これは、
一般的なアジの倍近い数値です。
刺身にしたとき、
・身が白く見える
・包丁に脂がつく
・口の中で溶ける
これらはすべて、
脂質が高い証拠です。
決して鮮度が落ちているわけではありません。
冬の南紀尺アジは「脂の塊」ではなく「完成形」
重要なのは、
脂だけが多いわけではない点です。
・身が締まっている
・水っぽくない
・旨味成分(イノシン酸)も多い
だから、
・刺身
・塩焼き
・フライ
どれにしても別格になります。
脂が多いのに、
しつこくない。
これが、
冬の南紀尺アジが
「異常に美味い」と言われる理由です。
まとめ|冬の南紀尺アジは“奇跡の条件下”にいる
冬の南紀尺アジが異常に脂が乗る理由は、
・程よい低水温
・黒潮由来の高栄養餌
・尺サイズという成長段階
・移動しなくて済む環境
これらが、
同時に成立しているからです。
偶然ではありません。
理屈で説明できる必然です。
だからこそ、
一度この味を知ると、
他のアジでは物足りなくなる。
冬の南紀尺アジは、
アジという魚の完成形です。

