世界中を見渡しても、日本ほど魚の種類が豊富で(約4,000種以上)、四季折々の多様な魚が楽しめる国は稀です。
その理由は、料理技術以前に、日本列島が置かれている「地理的な奇跡」にあります。
日本の周囲には、性格の全く異なる4つの海流が流れています。
特に太平洋側を流れる「黒潮(暖流)」と「親潮(寒流)」の存在は、日本の魚文化を決定づける最も重要な要素です。
①【筋肉の黒潮】24時間泳ぎ続けるアスリート魚たち
【海域:沖縄〜南紀〜関東沖】
黒潮は、南から北へ流れる世界最大級の暖流です。
私たち釣太郎のホームグラウンドである和歌山・南紀も、この黒潮の恩恵をダイレクトに受けるエリアです。
特徴:速くて温かい「天然の流水プール」
黒潮の最大の特徴は、その流速です。
時には時速7km以上(人間が小走りする速度)にもなる激流です。
この流れの中で生きる魚たちは、流されないように常に泳ぎ続ける必要があります。
いわば、24時間休むことなくトレーニングを続けているアスリートのような状態です。
味の特徴:「食感」と「キレのある旨味」 運動量が多いため、魚体は筋肉質に発達します。
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身質: 引き締まっており、プリプリ、コリコリとした強い弾力(歯ごたえ)があります。
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脂: 脂身は少なめで、さっぱりとしつつも、魚本来の筋肉が持つ力強い旨味(酸味を含む鉄分の味など)が特徴です。
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代表魚: カツオ、マグロ類、カンパチ、シイラ、磯のグレ(メジナ)
南紀の磯で釣れるグレの引きが強烈なのは、この黒潮の激流に鍛えられている証拠です。
②【脂の親潮】栄養満点の海で育つグルメなメタボ魚たち
【海域:北海道〜東北・常磐沖】
親潮は、北極圏から南下してくる寒流です。
「親潮」の名は、魚を育てる「親」のように栄養が豊富であることに由来します。
特徴:冷たくて栄養豊富な「海の極上レストラン」
水温が非常に低いため、魚たちは冷えから身を守るために皮下脂肪を蓄えようとします。
さらに、親潮には植物プランクトンが爆発的に多く含まれており、それを食べる動物プランクトンや小魚も豊富です。
つまり、「寒さを凌ぐために脂肪が必要」で、「食べる餌には困らない」という、肥えるための条件が揃っているのです。
味の特徴:「とろける脂」と「濃厚な甘み」 たっぷりと蓄えられた脂肪は、身全体にサシとして回ります。
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身質: 熱を通すとほろっと崩れるほど柔らかく、口の中でとろけるような食感。
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脂: 濃厚でこってりとした甘みのある脂が特徴。DHAやEPAも豊富です。
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代表魚: サンマ、サケ、タラ、ニシン、ホッケ
「秋刀魚(サンマ)は北で獲れたものが一番脂が乗っている」と言われるのは、この親潮の性質そのものなのです。
奇跡のコラボレーション「戻りガツオ」
春、黒潮に乗って北上する「初ガツオ」は、筋肉質でさっぱりとした赤身の旨味が特徴です(まさに黒潮の味)。
その後、東北沖の黒潮と親潮がぶつかる海域(潮目)に到達したカツオは、親潮域の豊富な餌をたっぷりと食べて栄養を蓄えます。
そして秋、水温の低下とともに南下を始めるのが「戻りガツオ」です。
この戻りガツオは、**「黒潮で鍛えられた筋肉質のボディ」に「親潮で培った濃厚な脂」**が
乗っているという、両方の海流の良いとこ取りをした、奇跡のような美味しさになるのです。
まとめ:南紀の釣り人は「筋肉の味」を誇ろう
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黒潮=筋肉(食感、歯ごたえ、キレ)
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親潮=脂(とろける、濃厚、甘み)
どちらが上というわけではなく、それぞれの海流が育んだ個性です。
南紀で釣りをする私たちは、世界でも有数の「筋肉質な魚」に出会える場所にいます。
磯でグレを釣ったら、その強烈な引きを思い出しながら、刺身のコリコリとした歯ごたえを楽しんでください。
それは、はるか南の海から旅をしてきた黒潮のエネルギーそのものを味わっている、ということなのです。

