和歌山・南紀の地磯は、アジ、グレ、イカの魚影が濃い最高のフィールドです。
しかし同時に、毎年多くの転落事故が起きている場所でもあります。
ここが「日本一滑る」と言われることもあるのには、明確な科学的根拠があります。
理由1:岩の「粒子」が細かすぎる(泥岩・砂岩の罠)
これが最大の理由です。
南紀の磯の多くは、数千万年前に海溝の底で堆積した**「泥岩(でいがん)」や「砂岩(さがん)」**で形成されています。
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花崗岩などの硬い岩: 表面がザラザラしており、摩擦係数が高い(滑りにくい)。
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南紀の泥岩: 構成する粒子が非常に細かく、表面がツルツルに摩耗しやすい性質があります。
水に濡れると、この細かい粒子が潤滑剤のような働きをし、まるで氷の上を歩いているような状態を作り出します。
特に「黒っぽくて平らな岩」は泥岩の可能性が高く、ゴム底の靴ではひとたまりもありません。
理由2:目に見えない「マイクロ・スライム」の膜
「海藻が生えていない場所なら大丈夫」と思っていませんか?
南紀の潮通しの良い場所では、波しぶきが常に岩を洗っています。
そこには、目視できないレベルの**微細な藻類(珪藻など)やバクテリアが薄い膜(バイオフィルム)**を作っています。
これが「乾いているように見えるのに、乗るとヌルッとする」現象の正体です。
このヌメリは、ラジアル(ゴム)ソールはもちろん、金属ピンのスパイクシューズであっても、
ピンが食い込まずに滑ることがあります。
理由3:海に向かって「順層」に傾いている
前回の記事で解説した通り、南紀の磯は隆起によって形成されています。
その際、地層が海に向かって滑り台のように傾いている場所(順層)が多く見られます。
「摩擦の少ない岩質」+「ヌメリ」+「海への傾斜」。 この3つが揃ってしまっているため、
一度バランスを崩すと止まる場所がなく、そのまま海へ滑落してしまうのです。
結論:南紀で「絶対に履いてはいけない靴」と「正解の靴」
では、どうすれば転倒を防げるのでしょうか。 南紀の地磯に限って言えば、靴選びの答えは明確です。
❌【危険】ラジアルソール(ゴム底)
スニーカーはもちろん、釣り用の長靴でもゴム底は自殺行為です。
濡れた泥岩の上では、ゴムは水膜の上を滑るだけで全くグリップしません。
南紀の地磯では絶対に使用しないでください。
△【場所による】スパイクソール(ピンのみ)
ゴツゴツした岩場では最強ですが、南紀特有の「ツルツルした平らな岩」の上では、
ピンが金属のスケート靴のようになり、カチカチと音を立てて滑ることがあります。
⭕【推奨】フェルトスパイクシューズ
南紀の磯で最も信頼できるのがこれです。
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フェルト: 繊維がヌメリや微細な藻を絡め取り、岩肌に密着する。
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スパイクピン: フェルトが捉えきれない凹凸に食い込む。
このハイブリッドタイプが、南紀の多様な岩質(ツルツルの泥岩〜海苔の生えた岩)に最も幅広く対応します。
まとめ
南紀の磯が滑りやすいのは、
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岩の粒子が細かくツルツルしているから
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目に見えない藻の膜があるから
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海に向かって傾斜しているから
この冬、寒尺アジや大型グレを狙って地磯に入る際は、必ず**「フェルトスパイク」**を装備してください。
そして、「黒く濡れている場所」は氷の上だと思って行動すること。
それが、大物を釣って無事に家に帰るための第一歩です。

