冬の和歌山・南紀地方の市場に並ぶイガミ(ブダイ)を見比べると、同じ魚にもかかわらず
赤みがかった個体と青みがかった個体がいることに気づきます。
そして釣り人や料理人の間では、青みの強いイガミは「身が硬く、刺身より煮付け向き」と語られます。
なぜ体色に違いがあり、青系ほど身が硬く感じられるのでしょうか。
その秘密は、生息環境・性成熟・筋肉組成の三つに隠されています。
イガミ(ブダイ)とは
・分類:スズキ目ブダイ科
・主な分布:本州中部以南、特に和歌山県南紀地方で多い
・特徴:サンゴや岩礁の藻類を食べるため、人間の歯に似た前歯を持つ
・旬:晩秋から冬(12〜2月)は脂が乗り、正月の祝い魚として重宝
赤系と青系に分かれる理由
1. 性転換による体色変化
ブダイ科の多くは雌性先熟(生まれたときはメス→成長するとオスへ)という性転換を行います。
・若い個体やメスは赤褐色〜ピンク系が多く、これが赤系。
・成熟してオスになると青緑色の体色が強くなり、これが青系。
性転換に伴うホルモン変化が色素細胞を刺激し、赤から青への変化が起こります。
2. 環境によるカモフラージュ
青系は外洋に近い岩礁域など、光量が多く水深のある環境に適応する傾向があります。
赤系は内湾や浅場の藻場など、赤褐色の海藻が多い場所に多く見られます。
背景色に溶け込みやすい体色が選択され、生息場所によって色が分かれます。
3. 年齢による色の深化
成長に伴い体表の色素細胞(クロマトフォア)が発達し、青緑色の光沢が増していきます。
つまり青系は「成熟した大型個体」である可能性が高く、これが肉質にも影響を与えます。
青系ほど身が硬い理由
1. 筋繊維の発達
オスへ性転換した青系は、縄張り争いや繁殖行動のために筋肉が発達します。
・長距離を泳ぐ必要がある外洋型の環境
・メスを守るための活発な動き
これらが筋繊維(特に速筋)を厚くし、結果として身が締まり硬く感じる肉質になります。
2. コラーゲン量の増加
成熟オスは皮下や筋膜のコラーゲン量が増加し、弾力が強くなります。
これにより加熱しても身崩れしにくく、煮付けや鍋料理に適した食感が生まれます。
3. 脂肪分の低下
産卵期を終えた大型オスは脂肪がやや少なく、赤系メスに比べて水分含量が低下。
脂が少ない分、筋肉の硬さが際立ちます。
味と料理の違い
赤系(メス・若魚)
・身:柔らかく脂が乗りやすい
・味:淡白ながら甘みがあり、刺身・寿司向き
・おすすめ料理:皮目を炙った刺身、昆布締め、煮付け
青系(オス・大型)
・身:筋肉質で締まりが強く歯応えあり
・味:脂は控えめだが旨味が濃い
・おすすめ料理:煮付け、潮汁、酒蒸し、鍋料理
→煮込んでも型崩れせず、コラーゲン豊富でだしが濃厚に出る
南紀地方での評価
和歌山県南紀地方では、赤系・青系ともに冬の祝い魚として高い人気があります。
特に大型青系は「オス=力強さ」の象徴とされ、祝い席では縁起が良い魚として重宝されます。
漁師は釣り上げた個体の色を見て調理法を変え、赤系は刺身、青系は煮付けと使い分けるのが地元流です。
まとめ
・イガミの体色は性転換・環境・成長によって赤系と青系に分かれる。
・青系は成熟オスで筋肉が発達しているため、身が硬く引き締まる。
・赤系は脂が多く柔らかく、刺身や寿司に最適。
・青系は煮付けや鍋で旨味を引き出すと極上の味。
南紀の冬にイガミを選ぶ際は、色と大きさを見て料理法を決めると、
よりその味わいを堪能できます。


