打ち寄せる波のリズムに合わせて、ひっそりと横たわる一本のエギ。
その布は潮風と日差しに焼かれ、かつての艶やかな輝きは今や色褪せていた。
ボディのあちこちに残るフグの歯型、
布のほつれ、
絡まった海藻と、釣り糸の残骸――
これはただのゴミじゃない。
きっと、誰かの「釣行記憶」の欠片だ。
おそらく、あのエギも最初は新品で、
釣具屋の棚でエギンガーに選ばれたその日を覚えているだろう。
「このカラー、きっと釣れる」
そんな期待を背負い、夜明けの磯にキャストされたあの日。
ドリフトで流された先で、アオリイカが一度でも抱いたかもしれない。
あるいは、根掛かりで身動き取れず、無念のままラインを切られたかもしれない。
それから幾星霜。
満ち引きの波に漂いながら、ようやく砂浜に辿り着いたこの姿は、
まるで旅を終えた漂流者のようだった。
道具としての役目は終えても、
その身に刻まれたキズや汚れが、逆に美しく思える。
「ああ、こいつも戦ったんだな」
拾い上げて、ふとそう思う。
きっとこのエギも、誰かの釣り人生のワンシーンを彩ったはず。
その記憶の続きを、別の誰かが拾って受け継ぐのも、またロマンだ。
エギは消耗品じゃない。
それは釣り人の「想いの矢」だ。
今日もまた、どこかの海で。
誰かの投げたエギが、イカと出会う物語を紡いでいる。


