冬の釣りは寒さとの戦いです。
しかし、その過酷さを乗り越えて手にした「寒ブリ」「寒グレ」「寒ビラメ」などの味は、
何物にも代えがたい極上の報酬です。
よく「脂がのっている」と表現しますが、天然魚の脂と、スーパーで買える養殖魚の脂には、決定的な違いがあることをご存じでしょうか。
今回は、釣り人だけが知る「本物の脂」の秘密に迫ります。
1. そもそもなぜ冬の魚は脂がのるのか?
冬の魚が美味しくなる理由は、主に2つの「生存本能」によるものです。
水温低下への適応: 魚は変温動物です。
冬の冷たい海で体温と体力を維持するために、エサを大量に食べて体内に脂肪というエネルギー源を蓄え込みます。
これが、いわゆる「冬の脂乗り」です。
産卵への準備: 多くの魚(グレやヒラメなど)は、冬から春にかけて産卵期を迎えます。
卵や白子を育てるための栄養を全身に蓄えるため、この時期の魚体はパンパンに張り、最高のコンディションになります。
2. 天然と養殖、「脂の質」における決定的な違い
養殖技術も進化し、今の養殖魚は非常に美味しいです。
しかし、天然魚との間には埋められない「脂の質」の違いがあります。
【天然魚の脂】サラッとして胃もたれしない
天然魚は、広大な海を回遊し、小魚や甲殻類など自然の獲物を食べています。
その脂は「不飽和脂肪酸(DHAやEPA)」の純度が高く、融点(脂が溶ける温度)が低いのが特徴です。
そのため、口に入れた瞬間に体温でスッと溶け出し、濃厚な旨味を感じさせながらも、後味は驚くほどサッパリしています。
いくら食べても胸焼けしないのは、このためです。
【養殖魚の脂】こってりと重厚だが、独特の香りも
養殖魚は、効率よく太らせるために高カロリーな配合飼料(ペレット)を与えられ、運動量が制限された生簀(いけす)で育ちます。
そのため、全身に均一に、かつ大量に脂肪がつきます。
トロのような濃厚さはありますが、エサ由来の脂の匂いが残ることがあり、脂の融点も天然よりやや高くなる傾向があります。
そのため、沢山食べると少し重たく感じることがあるのです。
3. 「身の締まり」と脂のバランス
食感を決定づけるのは、筋肉の質と脂の入り方(サシ)です。
天然魚:筋肉の隙間に適度な脂
潮の流れに逆らって泳ぎ続ける天然魚は、筋肉が発達し、身が引き締まっています。
冬の天然魚は、この強靭な筋肉繊維の隙間に、上質な脂が入り込みます。
その結果、「コリコリとした歯ごたえ」と「ジュワッと溢れる脂の甘み」が同時に楽しめる、
奇跡的なバランスが生まれます。
養殖魚:全体的に柔らかい
運動量が少ないため、身質は全体的に柔らかめです。
脂は筋肉全体に霜降りのように入ることが多く、とろけるような食感になりますが、天然特有の
「弾力」とは異なります。
4. 香りの違いは「育った水」の違い
釣り上げた直後の天然魚には、爽やかな「潮の香り(磯の香り)」がします。
これは、きれいな海水を呼吸し、自然のエサを食べている証拠です。
一方、養殖魚はどうしても飼料の油分の匂いや、過密飼育による独特の匂いを感じ取ってしまうことがあります。
刺身で食べた時、鼻に抜ける香りの良さは、圧倒的に天然魚に軍配が上がります。
まとめ
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天然の脂は融点が低く、口どけが良くてサッパリしている。
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天然の身は運動量によって引き締まり、脂とのバランスが絶妙。
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天然には特有の「潮の香り」があり、臭みがない。
冬の冷たい海で釣り上げた一匹は、まさに自然が育てた芸術品です。
養殖魚のような「作られた脂」ではなく、生命力に溢れた「天然の脂」を味わえるのは、現場に立つ釣り人の特権です。
ぜひこの冬も、南紀の海で極上の「寒の魚」を狙ってみてください。

