水槽のアオリイカ、その「ヒレ」が止まらない謎
現在、釣太郎みなべ店では、秋限定でアオリイカの展示飼育を行っております。
この水槽をじっと眺めていると、誰もが気づく不思議な光景があります。
それは、アオリイカが泳ぐとき、胴体についているヒレ、通称**「エンペラ(耳)」を、まるで波打つように絶えずゆらゆらと動かしている**ことです。
彼らはピタッとその場に静止している「ホバリング」の最中ですら、このエンペラだけは休むことなく動き続けています。
「あのエンペラは、魚でいうヒレと同じ役割なのだろうか?」
「なぜ、泳ぐのをやめても動かし続ける必要があるのか?」
この記事では、その驚くべき理由と、アオリイカの高度な遊泳技術について徹底的に解説します。
結論:エンペラは「魚のヒレ以上」の超高性能器官
まず、最初の疑問である「エンペラは魚のヒレに相当するか?」にお答えします。
答えは、「はい、機能的には魚のヒレ(特に胸ビレや尾ビレ)の役割を併せ持っています。しかし、その構造と性能はまったくの別物」です。
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魚のヒレ(例:胸ビレ): 骨(鰭条)によって支えられた膜であり、主に方向転換やブレーキ、姿勢維持に使われます。
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イカのエンペラ: 骨がなく、筋肉そのものでできています。胴体と一体化したこの筋肉質の「ひだ」を、まるで波のように滑らかに動かすことができます。
魚がヒレを「パタパタ」と動かすのに対し、イカはエンペラを「ウェーブ(波打たせる)」させることができます。
この「波」こそが、彼らの驚異的な動きの秘密であり、絶えず動かし続ける理由なのです。
アオリイカがエンペラを「絶えず動かす」3つの理由
映像でもご覧いただける通り、エンペラは止まりません。
それは、この器官が「推進力」「バランス」「舵」という3つの重要な役割を同時に、かつ精密に担っているからです。
理由1:【推進力】ホバリングと微速移動のための「スラスター」
アオリイカは、ロート(漏斗)から水を噴射する「ジェット推進」で高速移動(逃走や捕食)ができます。 しかし、ジェット噴射は「オン」か「オフ」かの、いわば「ターボエンジン」のようなものです。
一方でエンペラは、**「超精密なスラスター」**の役割を果たします。
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エンペラを波打たせることで、非常に微弱な推進力を生み出します。
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この推進力を使って、エギや獲物を品定めするようにその場にピタッと留まる「ホバリング」を行ったり、気づかれないようにゆっくりと前進・後退したりできます。
ドローンが空中で静止するためにプロペラを回し続けるように、アオリイカは水中で静止するためにエンペラを動かし続けているのです。
理由2:【姿勢制御】流れの中で体を保つ「バランサー」
水槽の中は一見穏やかでも、水は常に流れています。 自然の海なら、潮の流れや波があり、その中で姿勢を保つのは至難の業です。
エンペラは、体の傾きを瞬時に感知し、それを補正する**「スタビライザー(姿勢安定装置)」**として機能します。
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体が右に傾きそうになれば、左右のエンペラの波打たせ方を瞬時に変えて水平に戻します。
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エンペラを絶えず動かしているのは、水流の変化に対して常に「カウンター」を当て続け、最も安定した(=獲物を狙いやすい)姿勢を維持するためです。
理由3:【方向転換】滑らかに曲がるための「舵(かじ)」
魚が主に尾ビレや胸ビレで方向転換するように、アオリイカはエンペラで舵を取ります。 しかも、その性能は非常に高度です。
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左右のエンペラの動きを非対称にする(例:右だけ強く波打たせる)ことで、ジェット噴射を使わずに滑るように方向転換できます。
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波打たせる方向を変えることで、前進だけでなく、真横や斜め後ろへの移動といった複雑な三次元機動をも可能にしています。
ジェット推進との「完璧な使い分け」
アオリイカの遊泳は、この「エンペラ(精密動作モード)」と「ジェット推進(高速モード)」の完璧な使い分けによって成り立っています。
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リラックス時・索敵時(映像の状態): エンペラをゆらゆらさせ、省エネでホバリング・遊泳。
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捕食・逃走時: エンペラを体にピタッと畳んで水の抵抗をなくし、ロートからのジェット噴射で「矢」のように飛んでいく。
エギングで、エギの後ろについてきたアオリイカが、一定の距離でピタッと止まって様子を伺う時。
あの時、彼らはまさにエンペラをフル稼働させ、姿勢を制御しながら獲物(エギ)を分析しているのです。
まとめ:釣太郎みなべ店で「驚異の生態」を目撃しよう
アオリイカのエンペラが絶えず動いているのは、
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**ホバリング(空中停止)**のための微細な推進力
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水流の中で姿勢を保つバランサー
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滑らかに方向転換する舵(かじ)
という、3つの役割を同時にこなす、魚のヒレとは比較にならないほどの**超高性能な「筋肉器官」**だからです。
この驚くべき生態は、言葉や映像で知るよりも、実物を見るのが一番です。
釣太郎みなべ店では、この神秘的なアオリイカを**【秋限定】**で展示飼育中です。
私たちが日々追いかけているターゲットが、どれほど高度な能力を持っているのか。
ぜひこの機会に、その目で直接確かめに来てください。
ヤエンやエギングのヒントが、この水槽の中に隠されているかもしれません。

