フカセ釣りにおける二大巨頭、「グレ(メジナ)」と「チヌ(クロダイ)」。
どちらも奥深く、多くの釣り人を魅了するターゲットですが、熱心なグレ釣り師の中には、
チヌ釣りをどこか「軽視」するような風潮があるのも事実です。
「チヌはグレ釣りの外道」
「引きが物足りない」
「グレが釣れないからチヌを狙う」
なぜ、このような声が上がるのでしょうか。 これは単なる優越感ではなく、両者の
「釣りのスタイル」と「本質的な魅力」**が根本から異なることに起因しています。
この記事では、決してどちらが優れているという話ではなく、なぜ一部のグレ釣り師がチヌ釣りを
軽視してしまうのか、その背景にある4つの理由を深掘りします。
理由1:引きの「質」が全く違う(スピード vs パワー)
グレ釣り師が最もプライドを懸け、魅力として語るのが「引きの強さ」です。
- グレ(メジナ):「磯のスピードスター」 グレ、特に40cmを超える口太(クチブト)や尾長(オナガ)の瞬発力は凄まじいものがあります。 アワセた瞬間、あり得ないスピードで根(海底の岩)に突っ込み、釣り人を翻弄します。この**「瞬発的なスピードとパワー」**を、いかに細いハリス(仕掛けの糸)で耐え、いなし、浮かせるか。このスリリングな攻防こそが、グレ釣りの最大の醍醐味です。
- チヌ(クロダイ):「重厚なトルクファイター」 一方、チヌも50cmを超える「年無し」クラスになれば非常に引きますが、その質が異なります。 特徴は、ゴンゴンと**「首を振るような重々しい引き」**です。グレのような爆発的なスピードはなく、どちらかというと「重さ」と「持久力」で抵抗します。
グレ釣り師からすれば、グレの強烈なスピードファイトを基準にしているため、チヌのファイトは
「遅く、物足りない」**と感じてしまうのです。
理由2:「タナ(層)」の複雑性が違う
グレ釣りとチヌ釣りでは、攻略すべき「レンジ(水深)」が決定的に異なります。
- グレ:「縦の釣り」= タナを探る釣り グレは非常に遊泳力が高く、潮の流れやエサの状況によって、泳ぐタナ(層)が目まぐるしく変わります。 水面直下でエサを拾うこともあれば、海底深くでしか食わないこともあります。 グレ釣り師は、コマセ(撒き餌)と刺しエサを同調させつつ、「今、グレがどのタナで食ってくるか」を数センチ単位で調整し、複雑な潮を読み解く**「繊細なゲーム性」**に心血を注ぎます。
- チヌ:「横の釣り」= 底を釣る釣り 一方、チヌは基本的に海底にいるエサを捕食する習性が強い魚です。(もちろん、浮いてくる「浮きチヌ」もいますが、基本は底です) そのため、釣り方としては**「海底付近」**にタナを固定することが多くなります。
グレ釣り師の視点から見ると、この「タナを探る複雑さ」が少ないチヌ釣りは、どうしても
「単調」で「ゲーム性が低い」**ように見えてしまうのです。
理由3:主戦場(フィールド)のイメージ
釣り人がどこで釣るか、という「フィールド」のイメージも、この軽視に影響を与えています。
- グレの主戦場:「沖磯」 グレ釣りのハイシーズン(特に大型)は、渡船でしか行けないような「沖磯」がメインフィールドです。 荒波が打ち付け、時には危険も伴うハードな環境で、高みを目指すストイックなイメージがあります。
- チヌの主戦場:「波止・内湾」 チヌは沖磯にも当然いますが、その魚影の濃さや手軽さから、メインフィールドは**「波止(防波堤)」「地磯」「筏(いかだ)」「汽水域(河口)」**など、比較的穏やかで身近な場所が多いです。
グレ釣り師の中には、「わざわざ渡船代を払い、危険な沖磯まで来て、本気で狙う魚ではない」
という無意識の(あるいは意識的な)格付けが存在することがあります。
理由4:「食味」のイメージの違い
魚の価値は「味」も大きく左右します。
- グレ: 冬場の「寒グレ」は高級魚として知られ、脂が乗った白身は絶品。刺し身、しゃぶしゃぶ、白子など、食味の評価が非常に高いです。
- チヌ: 美味しい魚ですが、釣れる場所(特に内湾や河口)によっては、独特の「臭み」がある個体がいるというイメージが根強くあります。
「食べてもグレの方が美味い」という意識が、釣りのターゲットとしての評価にも影響を与えている側面は否めません。
まとめ:それは「スタイルの違い」であり「優劣」ではない
グレ釣り師がチヌ釣りを軽視しがちな理由は、
- 引きが「遅く」感じる(スピード不足)
- 釣りが「単調」に感じる(タナが底中心)
- フィールドが「身近」すぎる(波止や内湾)
- 食味が「劣る」と感じる(臭みのイメージ)
といった、あくまで**「グレ釣りの価値観」**を基準にチヌ釣りを見てしまうために起こる現象です。
しかし、これは大きな誤解です。 チヌ釣りには、チヌ釣りにしかわからない、とてつもない奥深さがあります。
- エサ取りをかわし、海底スレスレを這わせて食わせる技術。
- 警戒心が異常に高い「年無し」に口を使わせるまでの緻密な戦略。
- わずかなアタリを捉える繊細な仕掛けの調整。
グレ釣りが「縦の釣り」ならば、チヌ釣りは「横の釣り(ポイントや這わせ方を探る)」と言えます。
どちらが上ということは一切ありません。
グレ釣り師もチヌ釣り師も、互いのターゲットの魅力と、その釣りの奥深さをリスペクト
することが、フカセ釣りという文化をより豊かにするはずです。


