謎多き魚「イガミ(ブダイ)」の赤と青
冬の磯釣りのターゲットとして、また和歌山・南紀地方の郷土料理としても愛される
「イガミ(ブダイ)」。
(※標準和名はブダイ。 関西や四国ではイガミと呼ばれることが多いです)
写真のように、市場や釣果を見ると、鮮やかな赤色(写真下・中央)の個体と、
緑がかった青色(写真上)の個体がいることに気づきます。
これらは別の種類なのでしょうか。
それとも、単なる個体差でしょうか。
そして、肝心なのは「美味しいのはどちらなのか」ということです。
今回は、このイガミの「赤と青」の謎に迫ります。
結論:赤は「メス」、青は「オス」(が基本)
単刀直入に結論から申し上げます。
この色の違いは、多くの場合「性別」の違いです。
- 赤系(赤色・茶褐色): ほとんどが「メス(雌)」です。
- 青系(緑色・青緑色): ほとんどが「オス(雄)」です。
「え、じゃあオスとメスで色が全然違うの。」 はい、その通りです。
しかし、イガミの生態はそれほど単純ではありません。
ここに「性転換」というキーワードが絡んできます。
衝撃の生態。
イガミ(ブダイ)は性転換する魚
実は、イガミ(ブダイ)は、成長の過程で性別が変わる「性転換」をする魚です。
専門的には「雌性先熟(しせいせんじゅく)」と呼ばれます。
イガミ(ブダイ)の一生
- 誕生: 生まれた時は、基本的にすべて「メス」(またはオスとしての機能を持たない初期のオス)です。 この時の体色は、地味な赤褐色や茶色が基本です。 (これが赤系の個体です)
- ハーレム形成: イガミは、1匹のオスが複数のメスを率いる「ハーレム」を形成して生活します。
- 性転換: ハーレムを率いるオスが死んだり、いなくなったりすると、群れの中で最も優位なメスが「オス」へと性転換を始めます。
- 変色: オスに性転換した個体は、体色が劇的に変化します。 地味な赤色から、鮮やかな青緑色へと姿を変えるのです。 (これが青系の個体です)
つまり、**青いイガミは、メスからオスに性転換した「スーパーエリート」**のような存在なのです。
【最重要】美味しいのはどっち。
「赤」か「青」か。
さて、釣り人や食通にとって最も重要な問題です。 「赤(メス)」と「青(オス)」、美味しいのはどちらなのでしょうか。
これには、多くの地域で明確な答えがあります。
一般的に「赤(メス)」の方が美味しいとされています。
赤(メス)が美味しい理由
- 身質: 青(オス)に比べ、身が水っぽくなく、旨味が濃いと評価されます。
- 匂い: イガミは、その名の由来(イガイガした歯)の通り、強靭な歯で岩場の「藻」を削り取って食べます。 そのため、内臓や身に独特の「磯臭さ」を持つ個体がいますが、赤(メス)の方がその匂いが少ない傾向にあります。
- 真子(まこ): 旬である冬場(11月〜2月頃)のメスは、美味しい「真子(卵巣)」を持っています。 この真子を身と一緒に煮付けた「イガミの煮付け」は、南紀地方の冬の味覚の王様です。
青(オス)の評価は。
では、青(オス)は美味しくないのかというと、決してそんなことはありません。
旬の時期(後述)に獲れたものは美味ですが、赤(メス)と比べると「やや水っぽい」
「磯臭さが強い場合がある」と言われることが多いです。
このため、市場での価格も、赤(メス)の方が高値で取引される傾向が強いです。
イガミが美味しくなる「旬」と「匂い」の秘密
イガミの評価を左右する「磯臭さ」。
これは主食である「海藻」に由来します。
しかし、この匂いは一年中強いわけではありません。
イガミの旬は「寒ブダイ」とも呼ばれる**冬(晩秋〜2月頃)**です。
水温が下がる冬は、主食の海藻の質が変わる(または食べる量が減る)ためか、磯臭さが一気に抜けます。
同時に、身には脂が乗り、食感も良くなります。
この時期のイガミは、赤(メス)も青(オス)も、他の魚では味わえない独特の旨味を持つ絶品の白身魚へと変わります。
まとめ
- 赤と青の違い: 赤は「メス」、青は「オス(性転換後)」です。
- 性転換: イガミはメスからオスに性転換します。 その際に赤から青へ色が変わります。
- 美味しいのは: 一般的に「赤(メス)」です。 特に冬場の真子持ちは最高です。
- 旬: 冬。 磯臭さが消え、脂が乗る「寒ブダイ」の時期が狙い目です。


