南紀の磯遊びや素潜りで馴染み深いトコブシですが、地元では古くから「ナガレコ」という愛称で親しまれています。
なぜこれほどまでに呼び名が定着したのか、その由来には海の男たちの観察眼が隠されています。
トコブシはアワビに非常によく似ていますが、その動きはアワビよりもずっと機敏です。
磯で岩をひっくり返した際、驚くほどの速さで岩の裏側へ逃げ去るその姿。
まるで水が流れるように滑らかに動くことから、「流れ子(ナガレコ)」と名付けられたと言われています。
また、潮の流れに乗って素早く移動するという説もあり、生命力あふれる呼び名です。
単なる高級食材としてだけでなく、その生態を捉えた呼び名には、海と共に生きる人々の温かい眼差しを感じます。
アワビよりも身が柔らかく、煮付けにすると絶品のナガレコ。
南紀の豊かな海が育む、文字通り「流れ」の速い旬の味を、ぜひ大切に守っていきたいものです。

