釣り人は魚を「cm(長さ)」で誇り、魚屋は「kg(重さ)」で値をつけます。
なぜこの違いが生まれるのでしょうか?
釣りのロマンと市場のリアリティ、それぞれの視点から「魚の価値」について解説します。
尺アジやランカー狙いの釣り人も、美味しい魚を見極めたい人も必見です。
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はじめに:メジャーで測るか、秤(はかり)に乗せるか
大物が釣れたとき、まず釣り人が手に取るのはメジャーです。
「やった!50cmオーバーだ!」と歓喜の声が上がります。
しかし、その魚を市場や鮮魚店に持っていくと、会話の内容が変わります。
「お、これは丸々としていて1.5kgはあるね。いい値がつくよ」 このように、
**釣り人は「長さ(サイズ)」**を重視し、**魚屋は「重さ(ウェイト)」**を重視します。
なぜ同じ魚なのに、評価基準がこれほどまでに違うのでしょうか。
今回は、この両者の視点の違いと、そこから見える「魚の本当の価値」について掘り下げてみましょう。
1. 釣り人が「長さ」にこだわる理由
釣り人の世界では、魚の大きさは基本的に「全長(cm)」で語られます。 これには明確な理由があります。
視覚的なインパクトと記録(レコード)
釣りは「狩猟」の側面を持ち、釣果はトロフィーとしての意味合いが強くなります。
写真に撮った際、長さは一目で伝わる最大の指標です。
また、JGFA(ジャパンゲームフィッシュ協会)などの公認記録も、重さ部門はありますが、
一般的な釣り大会やSNSでの釣果報告は「長寸」が主流です。
「あと1cmでランカーだった」「泣き尺(30.3cm未満)だった」といった会話は、
長さを基準にしたドラマです。
成長の証としての長さ
魚は種によって最大サイズが決まっています。 その限界に近い長さまで育った個体に出会うことは、釣り人の技術と運の結晶です。
長く生きた魚(=長い魚)を釣り上げることに、釣り人はロマンを感じるのです。
2. 魚屋が「重さ」を重視する理由
一方で、プロの現場である市場や魚屋では「長さ」は二の次です。 取引は基本的に「キロ単価(kg/円)」で行われます。
これには、商売としてのシビアな現実が関係しています。
可食部(歩留まり)の量
魚屋にとって重要なのは、「お客様に提供できる身がどれだけあるか」です。
同じ30cmのアジでも、痩せ細った個体と、脂肪を蓄えて太った個体では、取れる身の量が全く異なります。 重さは、そのまま「商品のボリューム」に直結します。
例えばブリなどの大型魚の場合、長さがあっても痩せていると、刺身にした時に取れるサクの数が減ってしまい、利益が出ません。
脂の乗りと味の良さ
「重さがある」ということは、それだけ身が厚く、内臓脂肪や身に脂が乗っている可能性が高いことを示します。
プロは魚を見た瞬間、長さよりも「肥満度」を見ます。
**「体高(たいこう)」や「厚み」**がある魚は重く、そして美味しいのです。
痩せて長い魚よりも、少し短くてもコロコロと太って重い魚の方が、市場価値は圧倒的に高くなります。
3. 「長さ」と「重さ」のギャップが生まれる瞬間
ここで面白い現象が起きます。 釣り人と魚屋の評価が逆転するケースです。
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アフタースポーン(産卵後)の個体
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釣り人: 「デカイ!80cmあるぞ!」(長さはあるので喜ぶ)
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魚屋: 「産卵後でガリガリだな。身に味がなくてスカスカだ」(値がつかない)
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内湾の居着き個体(金アジなど)
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釣り人: 「25cmか、尺には届かないな」(ちょっと残念)
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魚屋: 「おっ、このサイズでこの重さ!脂が回って最高級品だ」(高評価)
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このように、**釣り人は「骨格の大きさ(過去の成長)」**を見ており、**魚屋は「身の充実度(現在のコンディション)」**を見ていると言えます。
まとめ:両方の視点を持つと釣りはもっと楽しくなる
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釣り人の視点: ロマン、記録、長さ(cm)
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魚屋の視点: 味、利益、重さ(kg)
どちらが正解というわけではありません。
しかし、釣り人であっても「魚屋の視点(重さとコンディション)」を持つと、釣りの楽しみ方が深まります。
「この魚は長さはそこそこだけど、重量感がすごいから絶対に美味いぞ」 そう目利きができるようになれば、キャッチ&イートの満足度は格段に上がるはずです。
次に魚を釣ったときは、メジャーで長さを測った後、ぜひその「重み」もしっかりと手に刻んでみてください。
そこには、数字だけでは測れない魚の生命力が詰まっているはずです。

