釣り上げられた魚に食らいつく、蛇のような長い体。
一度噛み付いたら雷が鳴っても離さないと言われる「ウツボ」。
上の写真をご覧ください。
硬いウロコと骨を持つチヌ(クロダイ)を、頭から丸ごと飲み込もうとしています。
なぜ彼らはここまで獰猛になれるのでしょうか?
そして、どうやってこんな大きな獲物を喉の奥へと送り込んでいるのでしょうか?
実はウツボには、映画『エイリアン』のモデルにもなった**「隠された第2のアゴ」**が存在するのです。
1. 獰猛な理由①:視力が悪く「匂い」でスイッチが入る
ウツボが獰猛に見える最大の理由は、実は**「目が非常に悪い」ことにあります。
彼らの視力は弱く、獲物を目で見て判断することは苦手です。
その代わり、犬並みとも言われる
「嗅覚」**が異常に発達しています。 鼻の穴(前鼻孔)が突き出しているのは、
水の匂いを敏感にキャッチするためです。
つまり、彼らは「獲物だ!」という匂いを感じると、目の前にある動くものに対して反射的に、
**「確認する前に噛み付く」**という習性を持っています。
釣り人が指を噛まれる事故が多いのも、ウツボが怒っているからではなく、「エサの匂いがする
動くもの」として指を認識してしまっているからなのです。
この「見えないからこその過剰反応」が、獰猛さの正体の一つです。
2. 獰猛な理由②:逃走を許さない「特殊な歯」
ウツボの口の中を見たことがありますか?
彼らの歯は、ナイフのように肉を切るためのものではありません。
すべての歯が「喉の奥(内側)」に向かって鋭く倒れているのです。
これは、一度噛み付いた獲物が暴れれば暴れるほど、歯が深く食い込み、絶対に外へは逃がさない
という「逆棘(かえし)」の構造になっています。
写真の魚も、一度噛まれたが最後、後戻りできない地獄への一方通行に乗ってしまったのです。
3. 獰猛な理由③:映画のモデルになった「咽頭顎(いんとうがご)」
これが今回の解説の核心であり、ウツボ最強の秘密です。
写真のように、自分と同じくらいの太さの魚を丸呑みできるのはなぜか?
ウツボの喉の奥には、通常のアゴとは別に、**「咽頭顎(いんとうがご)」と呼ばれる
「第2のアゴ」**が隠されています。
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まず、口(第1のアゴ)で獲物に噛み付き、固定する。
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次に、喉の奥から**「第2のアゴ」がビヨーンと前に飛び出してくる**。
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この第2のアゴが獲物の肉にガッチリと食らいつき、ベルトコンベアのように獲物を喉の奥へと引きずり込む。
この動きは、映画『エイリアン』に登場する怪物のインナーマウスのモデルになったと言われています。 狭い岩穴で生活するウツボは、口を大きく開けたり、水を吸い込んで獲物を飲み込むことが苦手です。 そのために進化したのが、この「獲物を強制的に引きずり込むシステム」なのです。
4. 獰猛な理由④:回転して引きちぎる「デスロール」
もし、獲物が大きすぎて丸呑みできない場合はどうするのか? ウツボは獲物に噛み付いたまま、自らの体を激しく高速回転させます。 これを**「デスロール(死の回転)」**と呼びます。 ワニなどにも見られる行動ですが、ウツボはこの回転力で、獲物の肉をねじり切って引きちぎります。 釣り上げた際、仕掛けがグチャグチャに絡まるのは、彼らが本能的にこのデスロールを繰り出しているからです。
まとめ
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ウツボの獰猛さは、視力の弱さをカバーするための「過剰な攻撃本能」から来ている。
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内側に向いた歯は、一度噛んだら絶対に離さない「処刑器具」。
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喉の奥から飛び出す「咽頭顎(第2のアゴ)」が、巨大な獲物を強制的に飲み込む。
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このシステムがあるからこそ、写真のように大きな魚も頭から捕食できる。
見た目は恐ろしいですが、彼らもまた、厳しい海の中で生き残るために極限まで進化を遂げた生命の神秘そのものなのです。
釣太郎より
写真のような大型のウツボは、南紀の堤防や磯周りに多く生息しています。
見た目はグロテスクで獰猛ですが、実は和歌山県南紀エリアでは**「極上の食材」**として愛されています。
皮と身の間にある分厚いゼラチン質(コラーゲン)は、タタキや唐揚げにすると鶏肉とフグを
合わせたような濃厚な旨味があります。

