「幻の高級魚」と呼ばれるクエ。
その中でも「紀州産(和歌山県産)」は、食通やプロの料理人から別格の扱いを受けています。
同じクエなのに、なぜ紀州産だけがブランド化されているのでしょうか?
そこには、決定的な「味の違い」と、一般には知られていない「流通の秘密」がありました。
今回は、紀州産クエが最高峰とされる理由と、その希少性について数字を交えて徹底解説します。
紀州産クエが「最高級ブランド」とされる3つの理由
九州や四国でもクエは獲れますが、紀州産には明確な違いがあります。
その秘密は「海」と「人」にありました。
1. 黒潮が育む「筋肉」と「脂」のバランス
和歌山県の海は、本州最南端で黒潮がもっとも接岸するエリアです。
潮の流れが非常に速いため、ここで育つクエは運動量が段違いに多くなります。
その結果、身がダルダルにならず、筋肉質で強烈な弾力(コシ)が生まれます。
さらに、黒潮に乗ってやってくる豊富な小魚やイカを食べているため、冬場には上質な脂が全身に回ります。
「身は引き締まっているのに、脂は濃厚」。
この矛盾する2つの要素を最高レベルで両立しているのが紀州産なのです。
2. 「皮」と「出汁」の旨味が違う
クエの醍醐味は、皮周辺のゼラチン質と、骨から出る出汁にあります。
紀州産の天然クエは、このゼラチン質の層が分厚く、煮込んだ時の濃厚さが他地域のモノとは一線を画します。
「クエ鍋にするなら絶対に紀州産」と料理人が指名買いするのは、出汁の深みが全く違うからです。
3. 伝統の「活け締め」技術
どれだけ良い魚でも、処理が悪ければ台無しです。
紀州の漁師は、江戸時代から続くクエ漁(一本釣りや底引き網)の伝統を持っています。
獲った瞬間に血を抜き、神経を締める「活け締め」の技術が極めて高く、鮮度を落とさずに市場へ送り出すノウハウが確立されています。
この「扱い」の良さも、ブランド価値を支える大きな要因です。
衝撃の真実!紀州産天然クエのシェアは「わずか1%」
では、この紀州産天然クエは、どれくらい市場に出回っているのでしょうか。
結論から言うと、ほぼ手に入りません。
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市場シェア: 全国のクエ流通量のうち、紀州産天然クエが占める割合は**約1〜2%**と言われています。
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地元消費: 水揚げされた天然クエのほとんどは、地元の高級旅館や老舗料亭が「言い値」で買い取ってしまいます。 そのため、豊洲市場などの県外市場に流れることは滅多にありません。
「和歌山に行かなければ本物のクエは食えない」と言われるのは、このためです。
「天然 vs 養殖」の割合は?
近年は技術の進歩により、クエの養殖も盛んになっています。
市場全体のバランスはどうなっているのでしょうか。
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全体比率: 日本国内で流通するクエの約50%〜90%は養殖と推測されます。 (※漁獲量ベースでは天然200トン・養殖200トンと拮抗していますが、市場で見かけるモノの9割は養殖というデータもあります)。
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紀州の事情: 実は和歌山県は、近畿大学のお膝元ということもあり、クエの「完全養殖」発祥の地でもあります。 そのため「紀州産」の中には高品質な養殖クエも含まれますが、最高級ブランドとして語られるのはあくまで「天然物」です。
「冷凍 vs 生(活け)」の意外な比率
「天然なら、やっぱり生の刺身でしょ?」と思うかもしれません。 しかし、ここにも意外な事実があります。
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天然クエの70%以上は「冷凍」流通です。 クエは獲れる時期や量が不安定なため、多くの天然物は水揚げ直後に急速冷凍され、通年供給できるようにストックされます。
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生の割合は30%未満。 一度も冷凍されずに「活魚」や「生」の状態で客の口に入るクエは、天然物の中でもさらにごく一部の超エリートのみです。
まとめ
紀州産クエがブランドとされる理由は、黒潮の激流が作った**「最強の身質」と、地元漁師の「徹底した品質管理」**にありました。
しかし、その天然物は全国シェアのわずか1%程度。
さらに「生」で食べられる確率はもっと低くなります。
もし、和歌山の旅館や飲食店で「紀州産天然クエ(生)」に出会えたなら、それは奇跡に近い体験です。
その際は、値段を気にせず迷わず注文することをおすすめします。
一生の自慢になる味であることは間違いありません。

