絶品タチウオの矛盾?「高脂肪」なのに「とろける」理由
タチウオ(太刀魚)は、白身魚でありながら、青魚にも負けないほど豊富な脂(脂肪分)を持ちます。
にもかかわらず、その身は驚くほど繊維が細かく、しっとりとして柔らかいのが特徴です。
この「脂があるのに柔らかい」という一見矛盾した食感の理由は、タチウオが持つ特殊な生態と
筋肉構造に隠されています。
理由1:待ち伏せ型の「立ち泳ぎ」が生んだ筋肉構造
タチウオの身が柔らかく、きめ細かい最大の理由は、その独特の遊泳スタイルにあります。
1. 瞬発力より「姿勢維持」に特化した筋肉
タチウオはブリやカツオのような高速で広範囲を泳ぎ回る回遊魚とは異なり、
普段は水中で体を垂直に立てて待ち伏せるように生活しています。
獲物を捕らえるときも、一瞬の爆発的な加速で捕食するスタイルです。
このため、全身の筋肉は、長距離を泳ぎ続けるための持続力(持久力)よりも、微妙な姿勢の維持
と一瞬の爆発的な動きに使われます。
2. 繊維の太さに関わる「速筋」の性質
魚の筋肉には、瞬発力を担う**「速筋(そっきん)」が多く含まれています。
タチウオは、長距離を泳ぐ必要がないため、筋肉の繊維(筋節)が発達しすぎず、結果として
繊維が細かく、きめ細かな身質**になるのです。
これが、加熱しても身がホロリと崩れるような柔らかさにつながります。
💡 理由2:深海での「エネルギー温存」と「高脂肪」の関係
タチウオの豊富な脂は、その生息環境と日々の生活リズムに深く関係しています。
3. 垂直回遊で貯めるエネルギー
タチウオは、昼間は水深100m以深の深場で静かに過ごし、夜になるとエサを求めて浅場まで
浮上する日周垂直回遊を行います。
この垂直移動は大きなエネルギーを消費しますが、昼間の深場での活動量が少ないため、
効率よくエネルギーを温存・蓄積できます。
この蓄積されたエネルギー源が、脂となって体に蓄えられます。
4. 脂が「パサつき」を防ぐ
脂肪分は、魚の身をしっとりさせる効果があります。
タチウオの身が持つ、きめ細かく繊細な繊維質の間にたっぷりと脂が入り込むことで、
白身魚にありがちな加熱後のパサつきを防ぎ、「トロけるような食感」を生み出しているのです。
結論:タチウオの食感は「垂直生活」が生んだ芸術!
タチウオの「脂があるのに柔らかい」という絶妙な身質は、彼らが深海で垂直に立ち、
エネルギーを温存しつつ一瞬の動きで獲物を捕らえるという特殊な生存戦略の賜物です。
この独特の生態が、日本の食卓に並ぶときに「とろけるような最高の食味」として私たちを
楽しませてくれているのです。


