はじめに
魚の繁殖と聞くと、多くの人が「海に卵をばらまき、あとは自然に任せる」というイメージを持つでしょう。
確かに、イワシやサバのような回遊魚は数十万粒もの卵を産み、その大半は天敵に食べられてしまいます。
しかし、一部の魚は「少ない卵を確実に育てる」戦略をとり、その中でも特に注目されるのが 口内保育(マウスブルーディング) です。
この記事では、口内保育を行う魚の種類・方法・生存率の向上効果、そして自然界での進化的な意義について詳しく解説します。
口内保育(マウスブルーディング)とは?
定義
・親魚が卵や稚魚を口の中に入れて外敵から守る繁殖行動。
・「口の中がゆりかご」になる仕組みで、孵化後もしばらくは稚魚を守る種類もいる。
特徴
・親はその間、ほとんど捕食をしない(絶食状態)。
・稚魚が危険に遭遇すると口に戻して保護する。
・卵数は少なくても、生存率が格段に高い。
口内保育を行う魚の代表例
シクリッド科(アフリカンシクリッド)
・アフリカのマラウィ湖・タンガニーカ湖に多い。
・観賞魚として人気で、繁殖時にメスが卵を口に含む行動が見られる。
・稚魚は親の口から出たり戻ったりを繰り返しながら育つ。
タイ科(クロダイ・チヌ)
・日本の沿岸でもなじみ深いチヌは、実はオスが卵を口に含んで守る。
・産卵期の初夏には、親魚が口内保育を行う様子が観察されている。
アロワナ
・古代魚で観賞魚としても有名。
・オスが卵をくわえ、稚魚がある程度大きくなるまで守る。
・数週間にわたり稚魚を保護するため、非常に労力のかかる繁殖戦略。
ナマズ科
・アフリカンキャットフィッシュなどの一部が口内保育を行う。
ベラ科やアイゴ科の一部
・熱帯サンゴ礁に暮らす小型魚にも、口内保育を行う種類が存在する。
生存率の向上効果
一般的に、外に産み落とされた魚卵の 自然界での生存率は1〜5%程度 と言われています。
一方、口内保育を行う魚では外敵に狙われにくくなるため、 20〜50%程度まで上昇 すると考えられています。
生存率アップの要因
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外敵に卵が晒されない
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孵化後も口に避難できる
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安全な場所に移動可能
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親の口の中という「移動式のシェルター」
進化的な意味
・口内保育は「卵の数を減らしても、効率的に子孫を残す」戦略。
・環境が厳しく、外敵が多い場所では特に有利。
・その代わり親は繁殖中に餌を食べにくくなり、体力を大きく消耗する。
・「数より質」を選んだ進化の結果といえる。
釣り人から見た口内保育
・チヌ(クロダイ)を釣った際、口の中に卵や稚魚が見られることがある。
・その場合はリリースしてあげることが資源保護につながる。
・口内保育中の親を釣ると、その稚魚が全滅してしまう可能性もあるため注意が必要。
まとめ
・魚の口内保育は、稚魚の生存率を数倍〜十倍にまで引き上げる驚異的な繁殖方法。
・シクリッド、チヌ、アロワナ、ナマズ類などが代表的。
・数を産む戦略ではなく「確実に育てる戦略」をとる進化的背景がある。
・釣りや観賞の立場からも、この行動を知ることは自然への理解を深める一歩となる。


