「お父さんが釣ってきた魚、なんでこんなに美味しいの?」
家族にそう言われたとき、あなたは「苦労して釣ったからだよ」と笑って答えるかもしれません。
しかし、その美味しさは決して「気のせい」や「気分の問題」ではないのです。
そこには明確な、科学的かつ物流的な「差」が存在します。
今回は、なぜ釣り人が持ち帰る魚が、スーパーに並ぶ魚よりも圧倒的に美味いのか。
その秘密を紐解いていきます。
1. 「締め方」が別次元である
スーパーの魚の多くは「野締め(のじめ)」です。
網で大量に捕獲され、暴れまわり、苦しみながら死んでいった魚たちです。
魚が暴れると、体内のエネルギー(ATP)が激しく消費され、旨味の元が減ってしまいます。
さらに、ストレスで身が焼けたり、不味くなる成分が発生することもあります。
対して、我々釣り人はどうでしょうか。
釣り上げ直後の元気な状態で「活け締め」や「脳天締め」を行います。
即座に絶命させることで、エネルギーの浪費を防ぎ、鮮度を最高の状態でロックするのです。
この「死に方」の違いが、味の決定的な差となります。
2. 「血抜き」という魔法
魚の臭みの最大の原因は「血液」です。
スーパーの魚は、コストと手間の関係で、完全に血抜きされていないものが大半です。
血が残ったまま時間が経てば、そこから腐敗や生臭さが進行します。
釣り人は、釣ったその場でナイフを入れ、海水で振って血を抜きます。
このひと手間が、透明感のある美しい白身と、臭みのない極上の刺身を生み出すのです。
特に南紀で狙うようなアジやグレ、イカなどは、この処理で劇的に味が変わります。
3. 「海水氷」による温度管理の勝利
スーパーに並ぶまで、魚はトラックや市場を経由します。
その間、常に最適な温度が保たれているとは限りません。
発泡スチロールの中で温度が上がったり下がったりを繰り返せば、身は劣化します。
しかし、釣太郎のアングラーなら常識である「海水氷(かいすいごおり)」。
塩分濃度を保ったまま、魚体を氷点下近くまでキンキンに冷やし込む。
この「浸透圧を変えずに芯まで冷やす」技術こそが、身のプリプリ感を維持する秘訣です。
これは、現場にいる釣り人にしかできない芸当です。
4. 輸送ダメージの有無
網で獲られた魚は、何百匹、何千匹と重なり合い、押し潰されながら運ばれます。
目には見えなくても、身割れ(身の繊維が崩れること)や内出血を起こしていることが多いのです。
一方で、あなたが釣った魚は、一匹一匹丁寧に扱われます。
クーラーボックスの中で優しく冷やされ、押し潰されることもありません。
魚への「扱い」の丁寧さが、そのまま食感の良さとして皿の上に現れます。
5. 「食べるタイミング」を選べる自由
魚には「死後硬直」というプロセスがあります。
釣りたての「コリコリ」した食感を楽しめるのは、釣り人の特権です。
これはスーパーに並ぶ頃には消失している食感です。
また、数日寝かせて旨味を引き出す「熟成」も、完璧な血抜きと締め処理があってこそ成功します。
つまり、一番美味しいタイミングを自分でコントロールできるのです。
まとめ:それは「気のせい」ではない
結論として、自分が釣った魚が美味しいのは、決して思い出補正ではありません。
「適切な処理」「完璧な血抜き」「理想的な温度管理」「丁寧な輸送」。
これら全てが揃った、最高級料亭でもなかなか出せない品質の食材だからです。
スーパーの魚が「まずい」のではありません。
あなたが持ち帰る魚が「凄すぎる」のです。
自信を持って、その最高の一皿を家族や友人に振る舞ってください。

