はじめに:「パンダヒラメ」は過去の話?
昔から「裏側に黒い斑点(パンダ模様)があるのが養殖、真っ白なのが天然」と言われてきました。
しかし、最近の養殖技術は凄まじく進化しています。
水槽の底に砂を敷いたり、ストレスを与えない環境を作ることで、**裏側が真っ白な「天然そっくりな養殖ヒラメ」**も流通し始めています。
では、プロの魚屋はどこで見分けているのか?
実は、見た目の模様以上に、包丁を入れた瞬間の「身質」や「香り」に、どうしても超えられない**「養殖の限界(壁)」**が存在するのです。
1. 【見た目の限界】体型と「顔つき」は誤魔化せない
パンダ模様は消せても、育ち方は体型に出ます。
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メタボ体型と体高: 養殖ヒラメは運動量が少なく餌が豊富なため、背中の肉が盛り上がり、全体的に丸っこい「メタボ体型」になります。一方、天然は海流にもまれているため、シュッとした流線型で、魚体全体が薄く引き締まっています。
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尾ビレの擦れ: 決定的なのが「尾ビレ」です。過密な生簀(いけす)で育つ養殖モノは、壁や他の魚と擦れて尾ビレの角が丸く削れていることが多いです。天然はピンと角が尖り、美しい扇形をしています。
2. 【食感の限界】「透明感」と「弾力」の持続力
刺身にした時、最も差が出るのがこのポイントです。
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ガラスのような透明感: 天然のヒラメを捌くと、身は透き通るような美しい飴色をしています。一方、養殖は脂が強すぎるため、包丁を入れた直後から身が白濁しやすく、透明感が持続しません。
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「活かった」時の反発力: 天然ヒラメの活け造りは、噛んだ瞬間に歯を押し返すような強烈な弾力(反発力)があります。これは広大な海を泳ぎ回って鍛えられた筋繊維(コラーゲン)の強さです。 養殖も食感はありますが、どうしても筋肉の密度が低く、独特の「柔らかさ」や「水っぽさ」を感じることがあります。
3. 【味の限界】脂は作れても「香り」は作れない
ここが最大の「限界」であり、天然ヒラメの真骨頂です。
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磯の香り vs ペレット臭: 天然ヒラメは、その海域の小魚や甲殻類を食べて育ちます。そのため、身には上品な甘みと共に、ほのかな**「海の香り(磯の香り)」**が宿ります。 一方、養殖ヒラメはどうしても餌(ペレット)の影響を受けます。脂乗りは抜群でも、その脂から特有の「養殖臭」や「餌の匂い」がすることがあります。 技術向上で臭みは減っていますが、天然特有の「爽やかな香り」を人工的に作り出すことは、まだ不可能です。
4. 【番外編】エンガワの誤解
「回転寿司のエンガワは脂が乗ってて美味しい!」
そう感じる方も多いですが、実はあの脂の塊のようなエンガワの多くは、
巨大なカレイ(オヒョウなど)や、脂を乗せまくった養殖ヒラメのものです。
天然ヒラメのエンガワは、もっと筋肉質で**「コリコリ、サクサク」**とした小気味よい食感が特徴です。
脂は上品で、口の中でスッと溶けて消えます。
「脂の量」では養殖に勝てませんが、「食感とキレ」においては、天然こそが本物と言えるでしょう。
まとめ:それぞれの「良さ」を知る
養殖ヒラメを否定しているわけではありません。
「一年中安定して脂が乗っている」
「手頃な価格で食べられる」というのは、養殖ならではの素晴らしい価値です。
しかし、「透き通る身の美しさ」「鼻に抜ける磯の香り」「強烈な歯ごたえ」といった芸術的な
要素は、やはり厳しい自然界を生き抜いた天然魚にしか出せない「味の到達点」です。
魚屋さんでヒラメを見かけたら、ぜひ「尾ビレ」や「身の透明感」をチェックしてみてください。
その魚が歩んできたストーリーが見えてくるはずです。

