「今日は高級魚のマダイが釣れたから、刺身が楽しみだ!」
そう意気込んで持ち帰ったのに、家で食べてみたら
「あれ?意外と普通…いや、ちょっと臭い?」と感じたことはありませんか?
逆に、一般的には評価の低い魚でも、驚くほど美味しかった経験はないでしょうか?
その違いは、魚の種類のせいではありません。
「魚種による味の差」よりも、「釣り上げた直後の処理による味の差」の方が圧倒的に大きいのです。
今回は、1匹数百円の価値の魚を、数千円の料亭の味に変える「現場処理の魔法」について解説します。
見出し1:高級魚も台無し?「野締め」の悲劇
どれほどポテンシャルの高い魚でも、処理を間違えればその価値はゼロ、あるいはマイナスになります。
放置された魚の体内でおきていること
釣れた魚をバケツに入れたまま放置し、酸欠で死なせることを「野締め(のじめ)」と言います。
この時、魚は極度のストレスを感じ、暴れ回ります。
すると、旨味の元になるエネルギー(ATP)をすべて使い果たしてしまいます。
さらに、全身に乳酸が溜まり、身が酸っぱくなったり、食感がボソボソになったりします。
「腐ってはいないけれど、美味しくない」原因のほとんどがこれです。
血液は「生臭さ」の爆弾
また、心臓が動いているうちに血を抜かないと、血液が全身の毛細血管に残ります。
血液は雑菌の繁殖スピードが非常に速く、死後すぐに腐敗が始まります。
これが、あの独特な「魚臭さ」の正体です。
血が残ったマダイより、血を完全に抜いたイスズミの方が、刺身にした時に臭みがなく
美味しいという事実は、ベテラン釣り師の間では常識です。
見出し2:勝負は「釣り上げた直後の数分」で決まる
魚を「食材」として最高レベルに引き上げるためには、釣り上げてからクーラーボックスに
入れるまでの「数分間」がゴールデンタイムです。
手順1:脳締め(即殺)で時間を止める
まずはピックやナイフで脳を突き、即死させます。
魚が「自分が死んだこと」に気づかないうちに命を絶つことで、ストレスによる旨味成分の減少を食い止めます。
いわば、魚の鮮度時計をそこで止める作業です。
手順2:血抜きで「臭みの元」を断つ
心臓が少しでも動いているうちにエラを切り、海水中で振って血を出し切ります。
完全に血が抜けた身は、透き通るような美しさを持ち、熟成させても生臭くなりません。
「魚が苦手」という人の多くは、魚そのものではなく「酸化した血液のニオイ」が苦手なだけなのです。
手順3:神経締めで「死後硬直」を遅らせる(上級編)
余裕があれば、背骨の中の神経をワイヤーで破壊します。
これにより死後硬直の開始を大幅に遅らせることができ、プリプリの食感を長時間キープできます。
ここまでやれば、どんな魚でも「極上」になります。
見出し3:クーラーボックスは「冷蔵庫」ではない
処理が終わった後の保冷方法も、味を左右する重要な要素です。
「潮氷(しおごおり)」で芯まで冷やす
ただ氷の上に魚を置くだけでは不十分です。
海水と氷を混ぜた「潮氷」に魚を浸し、体温を一気に下げてください。
魚は変温動物であり、外気温や水温の影響を受けやすい生き物です。
体温が高いままだと、いくら締めても身の劣化が進んでしまいます。
真水は厳禁
この段階で真水(水道水や氷が溶けた水)に魚を当ててはいけません。
浸透圧で身が水を吸い、水っぽくなってしまいます。
ビニール袋に入れるなどして、真水から守りましょう。
まとめ:処理技術は、誰でもできる「最強の調味料」
「魚種」を変えることは運次第ですが、「処理」はあなたの技術次第で100%コントロールできます。
釣り上げた直後のたった数分、ハサミやナイフを入れる手間を惜しまないでください。
その一手間こそが、スーパーの魚には決して真似できない、釣り人だけの特権的な「旨味」を
生み出す最強の調味料なのです。
さあ、次回の釣行からは、すべての魚を「料亭級」に仕上げて持ち帰りましょう。

