アオリイカを釣り上げた瞬間、顔面に海水を浴びせられた経験はありませんか?
あるいは、大事なウェアを真っ黒な墨で汚されてしまったこともあるでしょう。
「なんで今は水で、さっきは墨だったの?」
実はアオリイカ、この2つを明確な基準とコスト意識で使い分けているのです。
今回は、アオリイカの生態に基づいた「水と墨の使い分け」について深掘りします。
1. そもそも「吐く」仕組みはどうなっている?
まず、水も墨も出てくる場所は同じです。
「漏斗(ろうと)」と呼ばれる、足の付け根にある管から噴射されます。
基本は「ジェット推進」
アオリイカは外套膜(胴体部分)の隙間から海水を吸い込みます。
その水を筋肉で圧縮し、漏斗から勢いよく吐き出すことで、その反作用で進みます(ジェット推進)。
つまり、「水を吐く」行為は、彼らにとって呼吸であり、移動手段そのものなのです。
墨は「オプション機能」
墨袋(墨汁嚢)は、この水が通る管の途中に繋がっています。
通常は閉じていますが、指令が出ると弁が開き、噴射される水に墨が混ざる仕組みです。
つまり、「水鉄砲」が標準装備で、「墨」はそこにインクを混ぜた特殊弾というイメージです。
2. 水と墨、どう使い分けている?その明確な「基準」
アオリイカがこれらを使い分ける最大の理由は、**「エネルギーコスト(燃費)」**の違いです。
① 海水を吐くとき(コスト:ゼロ)
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目的: 威嚇、軽い抵抗、目くらまし。
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基準: 「命の危険までは感じていないが、不快であるとき」。
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解説: 海水は周りに無限にあるため、いくら吐いても減ることはありません。 釣り上げられた際、まずは手軽な「水鉄砲」で相手をひるませようとします。 また、空中に上げられた際、体内の水を抜いて軽くしようとする生理現象でもあります。
② 墨を吐くとき(コスト:特大)
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目的: 捕食者からの緊急回避、分身の術。
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基準: 「生命の危機を感じたとき」「逃げ道を作りたいとき」。
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解説: 墨を作るには、タンパク質やメラニンなど多くの栄養とエネルギーが必要です。 一度大量に吐くと、再生成に時間がかかります。 そのため、アオリイカにとって墨は**「虎の子の最終兵器」**。 むやみやたらには使いません。
【重要】アオリイカの墨は「煙幕」だけじゃない アオリイカの墨は粘度が高く、水中で塊になります。
これを自分と同じ形(ダミー)に見せかけ、敵がダミーを襲っている間に逃げる「分身の術」として使います。
3. 釣り人が被害を避けるための対策
この習性を理解すれば、被害を最小限に抑えることができます。
水鉄砲を避けるには
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漏斗の向きを見る: 取り込み時、漏斗(足の間の管)が自分の方を向いていないか確認しましょう。
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胴体を締め付けない: お腹(外套膜)をギュッと握ると、反射的に体内の水が噴射されます。
墨爆弾を避けるには
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水中で吐かせる: 取り込む前に、水面で墨を吐かせてしまうのが一番安全です。
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衝撃を与えない: 磯や堤防に置いた衝撃でスイッチが入り、最後にドバっと吐かれることがあります。 締める(急所を刺す)までは油断禁物です。
まとめ:アオリイカは「ケチ」な戦略家
アオリイカは、タダで使える「水」と、高価な「墨」を状況に合わせて冷静に使い分けています。
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「邪魔だあっち行け!」= 水鉄砲
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「殺される!逃げなきゃ!」= 墨噴射
次回、釣れたアオリイカが水を吐いてきたら、「まだ余裕があるな」と観察してみてください。
ただし、覗き込みすぎて顔射されないようにご注意を!

