アオリイカの「漏斗(ろうと)」とは?ジェット推進から墨吐きまで、驚異の多機能器官を徹底解説

アオリイカの「あの管」の正体

アオリイカを釣ったり、捌いたりする時、腕(足)の付け根の中心に、ホースの先端のような「管(くだ)」があることに気づくはずです。

それが**「漏斗(ろうと)」**です。(英語では Siphon または Funnel と呼ばれます)

一見すると地味なこの器官ですが、実はこれこそが、アオリイカが海のハンターとして君臨するための**「超高性能な多機能エンジンノズル」**なのです。

アオリイカの「エンペラ(ヒレ)」が微調整やホバリングを得意とする(※別記事で解説)のに対し、この「漏斗」は、爆発的なスピードと、驚異的な機動性、そして生命維持そのものを司っています。

この記事では、アオリイカの「漏斗」が持つ、知られざる4つの主要機能について、どこよりも詳しく徹底的に解説します。


機能1:【ジェット推進】アオリイカの「ロケットエンジン」

漏斗の最も有名で、最も強力な機能が「ジェット推進」です。

これは、文字通り**「水ロケット」と全く同じ原理**です。

仕組み:どうやって水を噴射するのか

アオリイカの胴体(外套膜)は、丈夫な筋肉の袋になっています。 彼らはこの筋肉を使い、以下の動作を瞬時に行います。

  1. 【吸水】 まず、外套膜と頭部の間にある隙間を広げ、胴体(外套膜)の内部に海水を一気に取り込みます。この時、外套膜はパンパンに膨らみます。

  2. 【ロック】 次に、外套膜の隙間を軟骨性の留め具でピタリとロックし、水の入り口を完全に塞ぎます。

  3. 【噴射】 胴体(外套膜)の筋肉全体を、全力で、かつ瞬時に収縮させます。

  4. 【加速】 逃げ場を失った海水は、唯一の出口である「漏斗」から猛スピードで噴射されます。この強烈な反作用(作用・反作用の法則)によって、イカは漏斗の向きとは逆の方向へ、矢のようにぶっ飛んでいきます。

エギングで、エギに抱きつく瞬間の爆発的な突進や、ヤエンに驚いて猛スピードで逃走する時の速さは、すべてこのジェット推進によるものです。


機能2:【方向転換】自由自在の「ベクターノズル」

もし漏斗が「ただの管」なら、イカは一方向にしか進めません。

しかし、アオリイカの漏斗が驚異的なのは、このノズルの向きを自由自在に変えられる点にあります。

驚異の可動域

漏斗は非常に柔軟かつ強力な筋肉でできており、その先端を上下左右、あらゆる方向に向けることができます。

これは、戦闘機の「推力偏向ノズル(ベクターノズル)」と同じ機能です。

  • 後退(基本): 漏斗を「前(頭側)」に向ければ、水は前に噴射され、イカは後ろ(胴体側)へ高速移動します。これがイカの基本の逃走姿勢です。

  • 前進: 漏斗を瞬時に「後ろ(胴体側)」へ曲げれば、水は後ろに噴射され、イカは前(頭側)へ進むことができます。

  • 急旋回・スライド移動: 漏斗を「右」や「左」に向ければ、その場で回転したり、真横にスライド移動したりすることすら可能です。

アオリイカがアジを抱いたまま、不自然な体勢で沖へ向かって泳いだり、障害物を巧みに避けたりできるのは、この漏斗による精密な操舵機能があってこそなのです。


機能3:【排出口】すべての「不要物」を捨てる場所

漏斗の役割は、推進だけではありません。

体内で発生した**「すべての不要物」を体外に排出する**、唯一の「排気・排出ポート」としての役割も担っています。

墨を吐く「噴射口」

敵に襲われた時に吐く「墨」。あの墨はどこから出るのでしょうか?

答えは**「漏斗」**です。

墨袋(インク嚢)で作られた墨は、消化管の出口(肛門)付近に放出されますが、最終的に水と一緒にこの漏斗から勢いよく噴射されます。

これにより、墨を効率よく広範囲に拡散させ、敵の視界を奪うと同時に、自分そっくりの「分身(デコイ)」を作り出して逃走時間を稼ぎます。

フンや老廃物の「排泄口」

アオリイカの消化管の出口(肛門)は、漏斗の根元、つまり外套膜の内部に開口しています。

そのため、消化されたフンや、腎臓で作られた老廃物(尿)も、すべて漏斗を通って排出されます。

泳ぎながら(=水を噴射しながら)排泄することで、自分の体や縄張りを汚すことなく、老廃物を水流に乗せて遠くへ捨てることができる、非常に合理的な仕組みです。


機能4:【呼吸】生命維持のための「排気口」

アオリイカは、私たちと同じように酸素がなければ生きていけません。

彼らは「エラ(鰓)」を使って水中の酸素を取り込みます。

そして、この「呼吸」と「ジェット推進」は、実は連動しています。

  • 【吸気】 機能1で説明した「吸水」時、外套膜に取り込まれた新鮮な海水は、まず外套膜の内部にある一対のエラを通過します。この時、酸素が取り込まれます。

  • 【排気】 そして「噴射」時、酸素を抜き取られた古い海水が、二酸化炭素や老廃物と一緒に漏斗から排出されます。

つまり、アオリイカは**「ジェット推進のための吸水・噴射」と「呼吸のための吸気・排気」を、同じ動作で同時に行っている**のです。

漏斗は、呼吸という生命維持活動において「排気口」という重要な役割も担っているのです。


まとめ:漏斗はアオリイカの「万能生命維持装置」

アオリイカの「漏斗」について、その驚異的な機能をまとめます。

  1. ロケットエンジン(ジェット推進): 爆発的なスピードを生み出す推進装置。

  2. ベクターノズル(方向転換): 自由自在に動く、高性能な舵。

  3. 排出口(墨・フン): 墨やフン、老廃物を捨てる唯一の排泄ポート。

  4. 排気口(呼吸): 呼吸(エラ)で使った古い海水を排出する役割。

漏斗は、単なる「水を吐く管」ではありません。

「推進・操舵・排泄・呼吸」という、生きるために不可欠な複数の機能を、たった一つの器官に集約させた、アオリイカの生態の根幹をなす「万能生命維持装置」なのです。

今度アオリイカを釣ったら、ぜひこの精巧な漏斗の作りに注目してみてください。

その小さな管に、彼らの生き様のすべてが詰まっています。

現在みなべ店で泳いでいるので、ゆっくりと御観察下さい。

漏斗は、単なる「水を吐く管」ではなく推進・操舵・排泄・呼吸という複数の機能を、たった一つの器官に集約させた、アオリイカの生態の根幹をなす「万能生命維持装置」釣太郎

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