「やった!念願の高級深海魚、キンメダイだ!」
大喜びでリールを巻き上げ、海面に姿を現した魚を見て、あなたは驚愕するかもしれません。
魚の口から、まるで風船のように何かが大きく飛び出している…。
これは深海魚釣りではよく見られる光景ですが、初めて見た方は「何これ!?」
「病気?」とビックリしてしまいますよね。
この記事では、多くの釣り人が疑問に思うこの現象について、
- なぜ口から浮袋が飛び出すのか?その科学的な理由
- 「これ、食べても大丈夫?」味への影響は?
- 魚へのダメージを減らし、美味しく持ち帰るための対策
を、元釣具屋の視点から分かりやすく徹底解説します。
この記事を読めば、あなたも深海魚のエキスパートに一歩近づけるはずです。
釣り人が知るべき衝撃の理由:水圧との壮絶な戦い
結論から言うと、深海魚の口から浮袋が飛び出す主な原因は**「急激な水圧の変化」**です。
これは、人間がスキューバダイビングで急浮上した際に起こる「減圧症(潜水病)」とよく似た原理です。
圧倒的な水圧差
私たちが普段生活している地上の気圧を「1気圧」とすると、水中では10m潜るごとに約1気圧ずつ水圧が増えていきます。
例えば水深200mに生息するアコウダイやキンメダイは、常に指先に軽自動車が乗っている
ような凄まじい圧力がかかった世界で生きています。
ボイルの法則が引き起こす悲劇
理科の授業で習った「ボイルの法則」を覚えていますか? 「圧力と気体の体積は反比例する」という法則です。
- 圧力が高い(深海) → 気体の体積は小さい
- 圧力が低い(海上) → 気体の体積は大きい
深海魚が持つ「浮袋」は、海水との比重を調整して浮力を得るための、気体が入った袋です。
深海魚が釣り上げられると、この浮袋の中の気体がボイルの法則に従って急激に膨張します。
**深海(高圧)**で小さかった浮袋が… ↓ **海上(低圧)**に引き上げられることで、
数十倍に膨れ上がる!
膨れ上がった浮袋は風船のように内臓を圧迫し、逃げ場を失って最も抵抗の少ない口や
肛門から飛び出してしまうのです。
これが、あの衝撃的な光景の正体です。
気になる味への影響は?「浮袋が出た魚はマズい」は本当か
「こんな状態になった魚、美味しくないんじゃ…」 そう心配になる気持ちはよく分かります。
結論から言うと、浮袋が飛び出したこと自体が、直接的に魚の味を落とすわけではありません。
しかし、「鮮度が落ちやすくなる」可能性は高まります。
その理由は、急激な減圧が魚体に与える強いストレスにあります。
- 身割れや内出血: 魚が水中で急激な体調変化に苦しみ、暴れることで身が割れたり、内出血を起こしたりします。
- 内臓の損傷: 膨張した浮袋に圧迫されて内臓が損傷し、自己消化酵素が漏れ出して身の劣化を早める可能性があります。
- 処理の遅れ: 適切な処理が遅れると、ストレスによる身質の低下や血生臭さが残る原因になります。
つまり、**「浮袋が出たからマズい」のではなく、「浮袋が出るほどの急激な変化を経た魚は、
何もしなければ鮮度が落ちやすい」**というのが正しい理解です。
逆を言えば、釣り上げた後の処理を完璧に行えば、極上の味を楽しむことができます。
釣り人ができる!ダメージを最小限に抑える3つの対策
では、どうすれば深海の恵みを最高の状態で持ち帰ることができるのでしょうか。
釣り人にできる対策は、大きく分けて3つあります。
対策1:可能な限り「ゆっくり」巻き上げる
最もシンプルかつ効果的なのは、リールの巻き上げ速度を通常より遅くすることです。
急激な水圧変化を少しでも緩和し、魚が水圧に順応する時間を与える(気体を少しずつ放出させる)イメージです。
もちろん、完全に防ぐことはできませんが、魚へのダメージを軽減する効果は期待できます。
注意点: ゆっくり巻きすぎると、サメなどの外道に横取りされたり、他の釣り人とオマツリ(仕掛けが絡むこと)したりするリスクも高まります。 周りの状況を見ながら、可能な範囲で実践しましょう。
対策2:釣り上げた後の「迅速な処理」が命
深海魚の味は、釣り上げた直後の数分で決まると言っても過言ではありません。
ここが最も重要なポイントです。
- 即座に締める(脳締め・神経締め)
- デッキに上げた瞬間に、ナイフや専用の器具で脳を破壊し、即死させます。
- これにより、魚が暴れて身が焼ける(ATPという旨味成分が消耗される)のを防ぎます。
- 可能であれば、ワイヤーを通して神経を破壊する「神経締め」まで行うと、死後硬直を遅らせ、長時間の鮮度維持が可能になります。
- 完璧な血抜き
- 浮袋が出ていても、エラ膜を切り、心臓をナイフで突いてしっかりと血を抜きます。
- 海水を入れたバケツなどに頭から入れておくと、きれいに血が抜けます。
- 血生臭さをなくし、透明感のある美しい身にするために必須の作業です。
- 内臓の処理と冷却
- 損傷している可能性のある内臓とエラは、できるだけ早く取り除きます。
- その後、真水に直接身が触れないように注意しながら、氷と海水でキンキンに冷えたクーラーボックスで保管します。
これらの処理を手際よく行うことで、減圧によるダメージの影響を最小限に抑え、
深海魚本来の旨味を最大限に引き出すことができます。
補足:浮袋のエア抜きは必要?
リリース(再放流)を前提とする場合は、専用の針で浮袋の空気を抜く「エア抜き」を行い、
自力で潜れるようにしてあげる必要があります。
しかし、食べるためにキープ(持ち帰る)するのであれば、エア抜きは不要です。
むしろ、下手に内臓を傷つけてしまうリスクがあるため、すぐに締めて血抜き処理に進むのが最善です。
まとめ
最後に、この記事の要点をまとめます。
- 理由: 深海から海上への急激な水圧低下により、浮袋内の気体が膨張し、口から飛び出す。
- 味: 浮袋が出ること自体が味を落とすわけではないが、適切な処理をしないと鮮度は落ちやすい。
- 対策: 「ゆっくり巻き上げる」ことと、釣り上げた直後の「脳締め」「血抜き」「冷却」という迅速な処理が最も重要。
深海魚の口から浮袋が飛び出すのは、彼らが過酷な環境で生きている証です。
この自然の摂理を理解し、釣り人としてできる限りの敬意を払い、最高の状態で命をいただく。
それが深海魚釣りの醍醐味の一つではないでしょうか。


