市場や漁港で、魚屋さんが持っている「手鉤(てかぎ)」。
フック船長みたいな、木製の柄に金属の鋭い爪がついたあの道具です。
あれでトロ箱の魚をヒョイヒョイ選別していく姿、職人っぽくてカッコいいですよね。
実はあの一連の動きの中で、選別と同時に「活け締め(脳締め)」まで終わらせている達人がいるのをご存知でしょうか。
「あれを使えば、自分も早く締められるんじゃ?」
そう思う方もいるかもしれませんが、ちょっと待ってください。
あれはプロだからできる「神業」であって、安易に真似すると痛い目を見ます。
今回は、憧れの道具「手鉤」の真実についてお話しします。
プロが手鉤を使う「本当の理由」
なぜ魚屋さんは手鉤を使うのか。
単に魚を引っ掛けて運ぶためだけではありません。
最大の理由は**「魚に触らないため」**です。
人間の手の温度は36度前後。
冷たい海にいた魚にとって、人間の手は高熱のアイロンのようなもの。
ベタベタ触れば触るほど、そこから鮮度が落ち、「手焼け」という変色を起こしてしまいます。
だからプロは、手鉤一本で魚を操り、体温を伝えずに処理を済ませるのです。
そして、その流れの中で、眉間にある脳を一撃で貫く。
これができると、魚は暴れる暇もなく即死状態になり、最高の鮮度が保たれます。
まさに、スピードと品質を極めたプロの技です。
素人がやると「凶器」になる
「じゃあ俺も手鉤を買おう!」と思った方。
正直、おすすめしません。
理由は単純、危なすぎるからです。
魚の脳は、外から見るとほんの小さな一点です。
そこを、振りかざしたフックの先端でピンポイントに貫く。
これは毎日何千匹と魚を扱っているからできる芸当です。
慣れていない僕たちがやると、どうなるか。
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狙いが外れる:魚の頭蓋骨は硬く、変なところに刺さると滑ります。
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魚が傷つく:何度もグサグサ刺してしまい、売り物にならなくなります。
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自分に刺さる:滑った手鉤が、魚を押さえている自分の左手にグサリ。
想像しただけで痛いですが、実際に市場では新人がよくやる怪我の一つだそうです。
釣り人は「締めピック」が最強
私たち釣り人は、一分一秒を争う市場の人間ではありません。
1匹の魚と向き合う時間は十分にあります。
だから、手鉤のような離れ業を使う必要はないんです。
確実に、安全に締めるなら、やっぱり**「締めピック」や「ナイフ」**が一番。
魚をタオルでしっかり押さえ、急所の位置を確認して、ジワリと差し込む。
これで十分、プロ顔負けの活け締めができます。
道具には、それぞれのステージに合った「適材適所」があります。
手鉤はあくまで、大量の魚を捌くプロのためのツール。
市場で見かけたら、「すげぇ技術だな」と心の中で拍手を送るくらいにしておきましょう。
カッコつけて大怪我をしては、せっかくの釣りが台無しですからね。

