結論の要約
- 「赤系」「白系」は、完全な作り話ではないが、そのまま“正式な分類名”でもない。
- 日本近海のアオリイカは、遺伝子解析の結果「複数の系統(種/亜種)」に分かれることが分かっているが、釣り人の言う「赤系=大型」「白系=小型」と、きれいに1対1対応しているとは言えない。
- 冬〜春の南紀でよく言われる「赤系はデカくなる」の正体は、 ①遺伝的な系統差+②水温や成長時期の違い+③体色変化と人間の認知バイアス が混ざった“経験則”と見るのが、科学的には一番しっくり来る。
ここから、「どこよりも詳しく」深掘りしていきます。
南紀のアオリイカの基礎知識と季節パターン
アオリイカという生き物のスケッチ
- 分類と基本情報: アオリイカ Sepioteuthis lessoniana はヤリイカ科アオリイカ属に属し、日本沿岸では最大クラスのイカ。胴長は 40〜45 cm、最大で 50 cm超・3〜6 kg に達する個体も報告されている。
- 寿命: 一般に寿命は約1年。春〜夏に沿岸の藻場などに産卵し、ふ化した子供はその年の秋には 300〜1000 g 程度、翌年春〜初夏に産卵し一生を終える。
- 体色: アオリイカは表皮にある複数の色素胞(クロモトフォア)を伸縮させて、
- 茶色〜赤
- 白〜半透明
- 斑模様 など瞬間的に変化させることができる。
南紀・冬〜春の特徴
南紀(串本〜白浜〜みなべ周辺)は黒潮が当たり、
- 冬でも水温が比較的高く、越冬個体が大きくなりやすい
- 黒潮系統の“南方系”と呼ばれるグループが入りやすい という背景があると考えられている。
釣り人が「冬〜春の南紀は赤系のデカいアオリが出る」と語るのは、
- その時期に沿岸に寄る“系統”
- その系統が成長しきったタイミング(寿命末期) が重なっている可能性が高い。
釣り人が言う「赤系」「白系」とは何か?
まず、現場レベルの“実感”を整理します。
釣り人が見ている違い
一般的にエギング・ヤエン界隈で言われるイメージはこんな感じです。
| 区分 | ざっくりした見た目の印象 | よく言われる特徴 | 季節イメージ |
|---|---|---|---|
| 赤系 | 体色が赤茶〜ブロンズ系で濃い | 大型になりやすい・身が厚い・春に多い | 冬〜春(乗っ込み) |
| 白系 | 半透明〜乳白っぽく、薄い色合い | 小型〜中型が多い・数釣り・秋イカ | 夏〜秋 |
| クワイカなど | 小型・模様も違う | そもそも別物扱い | 南方・沖縄系 |
※この表は“釣り人の俗分類”のイメージであって、正式な学術分類ではない。
赤系・白系は「色の固定種」ではない
重要なのは、 アオリイカの体色は環境・気分・興奮度で一瞬で変わる という点です。
- 背景が暗い・ストレスが高い → 赤褐色・茶色寄りになりやすい
- 背景が明るい・リラックス → 白っぽく、半透明に近くなることが多い
つまり、 「同じ個体でも赤系にも白系にも見える」 状況は普通に起きます。
この時点で、
赤いから赤系の“種”、白いから白系の“種” と安易に決めつけるのは、科学的にはかなり危ない。
科学的に見た「アオリイカの系統」と赤系/白系の関係
アオリイカは“1種類”ではなかった
かつて、
日本近海のアオリイカは全部同じ種 Sepioteuthis lessoniana と考えられていましたが、2000年代以降の遺伝子解析で、複数の系統(種または亜種)から成る“アオリイカ類コンプレックス” として扱われるようになっています。
一般向けの解説では、これを
- 北方系(本州〜四国〜九州の温帯域)
- 南方系(沖縄〜南西諸島など亜熱帯・熱帯域)
- さらに別種扱いされる類似イカ と分けて説明するものもあります。
ここで釣り人が後から貼ったラベルが、
- 「大型になりやすいグループ」を“赤系”
- 「小型で数釣りのグループ」を“白系” と呼び分けている、という構図です。
「赤系=南方系・大型」「白系=北方系・小型」はどこまで本当か?
遺伝子研究+漁業統計から言えるのは、ざっくり次のようなレベルです。
- 系統によって最大サイズや成長カーブに差はありうるが、完全に“色”で分かれているわけではない。
- 沖縄など南方域に多い系統は、通称“南方系アオリ”と呼ばれ、暖かい海で長く成長できるため、結果的に大きくなりやすい。
- 本州太平洋沿岸の系統は、水温サイクルの関係で寿命1年の枠内での成長がやや抑えられ、平均サイズは小さめになりがち。
南紀はその境目にいるので、
- 北方寄りの系統
- 南方寄りの系統 が混合し、さらに季節や年によって比率が変わる可能性が高い海域です。
ここに、“赤っぽく見える大型個体”が冬〜春に集中することから、釣り人が「赤系=南方系=デカい」と感じている と考えるのが自然です。
「赤系は大きくなる」の科学的な中身
成長と産卵期のズレが“赤系=デカい”を生む
アオリイカは一年生ですが、ふ化時期と水温によって成長パターンが違う ことが知られています。
- 秋に生まれ → 冬の水温が低く成長が鈍い → 翌年春〜初夏に一気に大きくなるタイプ
- 春〜初夏に生まれ → 同じ年の秋に“秋イカ”として釣られ、そのまま冬〜春に産卵・寿命を終えるタイプ
南紀で冬〜春に釣れる“重量級アオリ”は、
- 比較的暖かい黒潮水塊で成長し、
- 越冬しながらじっくり育った個体 であることが多いと推定できます。
この「生まれ・育ちの条件」が、
- 筋肉質で身が厚い
- 体色も濃く見えやすい(高水温・活性が高い状態で興奮色になりやすい) という“赤系らしさ”を作っている可能性が高い。
体色の科学:色素胞と“見え方”のトリック
アオリイカの体色は、
- 黄色・赤・茶色などの色素胞(クロモトフォア)
- 虹色を作る構造色(虹色細胞) の組み合わせでできています。
- 興奮・ストレス・周囲の色 → 赤や茶色の色素胞を開く → “赤系”に見える
- リラックス・明るい背景 → 色素胞を閉じる → “白系”に見える
つまり、 大型でパワフルな個体ほど、掛けてからの興奮状態で赤く発色しやすく、「赤系や!」と印象に残りやすい という、人間側の記憶バイアスも強く働いています。
「本当に赤い遺伝型」が存在するのか?
現状の学術研究は、
- 体色を決める遺伝子の違い
- それが“赤系/白系”として現場の呼び名とどこまで対応するのか を詳細に解明しているわけではありません。
したがって、
- 「赤系という“色”そのものの遺伝型」 が独立して存在する、という証拠はまだ弱い。
- むしろ「系統+環境+行動」で結果的に“赤っぽい個体群”と“白っぽい個体群”が見えている、という整理のほうが現実的です。
釣り人にとっての実践的な整理
科学と経験則を統合すると、こうなる
Q. 赤系と白系は科学的に存在するのか?
- A. 「きっちり別種としての赤系/白系」という意味では存在しない。
- ただし、
- 遺伝的に異なるアオリイカの系統がいて
- その系統ごとに成長特性や分布域が違い
- 季節・水温・生息海域が違えば、体つきや色の出方も変わる という意味では、「赤系っぽい個体群」「白系っぽい個体群」が“現象として”存在している。
Q. 「赤系はデカくなる」は本当か?
- A. “傾向としてはそう見えやすいが、色だけで判断するのはNG”。
- 大型個体が多い系統+育ちの条件が整うと、「赤っぽく見える個体」が多くなる
- しかし小さくても赤く発色する個体もいるし、大型でも白く見える状況もある
南紀アングラー向け・見分けと立ち回りのヒント
- ポイント選び:
- 冬〜春に黒潮の影響が強く、水温が安定して高いエリアは「南方系+越冬大型」が入りやすい
- 深場からのブレイク〜藻場へのラインに、「乗っ込み前後の重量級」が着きやすい
- 見た目の観察:
- 体型: 胴がずんぐり・ヒレが厚く大きい → 成熟した大型個体であることが多い
- 模様: 赤茶色ベースで、細かい斑が浮き出る → 興奮状態の“戦闘モード”
- 釣りの戦略:
- 冬〜早春:
- デカい“赤系っぽい”個体を狙うなら、夕マヅメ〜ナイト、深場隣接のシャロー+潮通し
- エギ(ヤエンなら活アジ)のシルエットは大きめ、フォールを長く見せて食わせの“間”を作る
- 秋:
- 白っぽい“秋イカ群”は、数釣りモード+回遊待ちでテンポ良く探る
- 冬〜早春:
※ここはあくまで「科学的な背景を踏まえたうえでの、現場での戦術」という位置づけ。

