イカやタコは、なぜヌルヌルするのか?
アオリイカやタコを釣ったり、捌いたりする時、その体表には特有の**「ぬめり」**があります。
このぬめりは、塩もみなどで落とすのが一般的ですが、ふと疑問に思うことがあります。
「このぬめり、川魚のウナギやナマズが持つ、あの強力なヌルヌルと同じものなのだろうか?」
どちらも「粘液」であることは間違いありませんが、その成分と役割は本当に同じなのでしょうか。
この記事では、その疑問の答えを徹底解説します。
結論:主成分の種類は同じ。でも「中身」は全くの別物
結論から言うと、アオリイカやタコの「ぬめり」と、ウナギの「ぬめり」は、主成分の『種類』
は同じですが、その『中身(構造と役割)』はまったくの別物です。
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共通点: どちらも主成分は**「糖タンパク質(とうタンパクしつ)」の一種です。一般的に「ムチン」**と呼ばれる成分がこれにあたります。
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相違点: 生物の種(軟体動物 vs 魚類)が全く違うため、その糖タンパク質の具体的な構造や構成、そして「ぬめり」に求める機能が根本的に異なります。
これは、「自動車のタイヤも、消しゴムも、主原料は『ゴム』である」と言うのと同じです。
同じ「ゴム」という分類でも、求められる性能や添加物が全く異なり、互換性がないのと同じです。
徹底比較:イカ・タコ VS ウナギ の「ぬめり」
なぜ「別物」と断言できるのか、それぞれの「ぬめり」の正体と役割を見ていきましょう。
🦑 イカ・タコ(軟体動物)の「ぬめり」
アオリイカやタコは、**「軟体動物」**に分類されます。 彼らの皮膚は、ウロコを持つ魚類とは異なり、非常にデリケートです。
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主成分: ムチン(糖タンパク質)
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主な役割:
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体表の保護(物理的バリア): 柔らかい皮膚を、砂や岩、外部の接触から守る「潤滑剤」としての役割。
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保湿: 体表の水分を保ち、乾燥から身を守ります(特にタコは岩場を移動することがあります)。
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細菌・寄生虫からの防御: 粘液層が、病原体や寄生虫の侵入を物理的にブロックします。
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イカやタコのぬめりは、主に**「デリケートな体を守るための薄いベール」**のようなイメージです。
🐍 ウナギ(魚類)の「ぬめり」
ウナギは「魚類」ですが、その生態は非常に特殊です。
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主成分: ムチン(糖タンパク質)
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主な役割:
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強力な防御(捕食者対策): ウナギのぬめりは、敵(人間や他の動物)に掴まれた際に、物理的に滑って逃げるための強力な防御手段です。
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皮膚呼吸の補助と保湿: ウナギは陸上でもしばらく生きられることで知られています。これは、ぬめりで体表を覆い、皮膚呼吸を助け、乾燥を防いでいるためです。
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細菌・病原体からの防御: 泥の中や淡水・海水を問わず生息するため、イカ以上に強力な抗菌・抗寄生虫作用を持つ粘液で全身をコーティングしています。
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ウナギのぬめりは、**「攻防一体の万能バリアスーツ」**と言えます。
イカのぬめりよりも粘性が高く、量も圧倒的に多いのが特徴です。
【重要】なぜ成分が違うのか?
アオリイカとウナギは、生物の分類上(進化の系統樹)で、非常に遠い関係にあります。
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アオリイカ: 軟体動物門 – 頭足綱
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ウナギ: 脊索動物門 – 硬骨魚綱
人間と昆虫ほど違う、と言っても過言ではありません。
それぞれの生物が、全く異なる環境で、異なる脅威(外敵、病原菌、乾燥など)に適応するために、個別に「ぬめり」を進化させてきました。
その結果、たまたま「糖タンパク質(ムチン)」という同じ種類の物質を主成分として利用する
ことになりましたが(これを収斂進化と呼びます)、そのタンパク質の詳細な設計図(アミノ酸
配列や糖鎖の構造)は、それぞれの生物に合わせて最適化された「別物」になったのです。
まとめ:似ている「ぬめり」は、異なる進化の証
最後に、今回の疑問の答えをまとめます。
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アオリイカやタコの「ぬめり」と、ウナギの「ぬめり」は、主成分が「糖タンパク質(ムチン)」である点は共通しています。
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しかし、アオリイカ(軟体動物)とウナギ(魚類)は生物として全くの別種です。
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それぞれのぬめりは、**異なる生態と脅威に適応するために独自に進化した「別物」**であり、粘性や量、そして第一の目的(イカ=保護、ウナギ=防御)が異なります。
一言で「ぬめり」と言っても、そこには生物が生き残るための知恵と進化の歴史が詰まっています。
アオリイカを触る時は、そのデリケートな体を守るための「ベール」なのだと感じてみてください。

