活け締めをしたあと、エラを切って血を抜く工程で「バケツの海水」を使うか
「氷を入れた海水氷(潮氷)」を使うか、迷ったことはありませんか。
実はこの2つ、目的も効果も少し違います。
この記事では、それぞれの特徴を科学的な観点から比較し、
結局どちらを・どう使うのが正解なのかをまとめました。
結論:役割が違うので「使い分け」が正解
先に結論を言うと、常温の海水と海水氷はどちらか一方が絶対的に優れているわけではなく、
役割が異なるため、本来は組み合わせて使うのがベストです。
- 常温の海水:心臓のポンプ作用を使って血液をしっかり排出する「血抜き」に向いている
- 海水氷(潮氷):魚体を素早く均一に冷やして、細菌の増殖や自己消化を抑える「冷却」に向いている
つまり「血抜きは常温海水」「その後の保冷は海水氷」という役割分担が、
科学的に見ても理にかなっています。
温度の違いを科学的に見る
常温海水の温度
海水温は季節によって変わりますが、夏場であれば20〜28℃程度、
冬場でも10℃前後になることが多く、魚体とそれほど大きな温度差はありません。
心臓のポンプ機能を阻害しない範囲で、血液を自然に排出させやすい環境です。
海水氷(潮氷)の温度
海水氷は、氷に海水を加えたものです。
真水は0℃で凍りますが、塩分が溶け込むことで凝固点が下がる
「凝固点降下」という現象が起こり、潮氷は液体の状態でも0℃を下回る温度を維持できます。
この特性を利用し、魚体を氷点下に近い温度で急速に冷やすことができます。
なぜ水につける冷却が優れているのか
魚を冷やす際、氷の上に直接置くよりも、冷たい水(潮氷)の中に沈めるほうが効率的だと
言われています。
これは、水の熱伝導率が空気のおよそ20倍あるためです。
水中では魚体のほぼ全面が冷たい水に触れ続けるため、
冷えムラが少なく、短時間で中心部まで温度を下げやすくなります。
温度差が鮮度に与える影響(目安の考え方)
食品中の酵素反応や細菌の増殖速度は、温度が10℃下がるごとにおおよそ半分程度まで落ちる、
という一般的な食品科学の経験則(Q10則)があります。
これはあくまで一般的な目安の考え方であり、魚の血抜き工程そのものを対象にした
厳密な実験データではありませんが、次のようなイメージで捉えると分かりやすくなります。
- 常温海水(20℃前後)のまま置いておいた場合と比べて、海水氷(0℃前後)まで一気に冷やすと、温度差は約20℃分になります
- Q10則をそのまま当てはめると、酵素反応や細菌の増殖スピードは理論上4分の1程度まで抑えられる計算になります(=進行速度が単純計算で75%程度遅くなるイメージ)
繰り返しになりますが、これは食品科学の一般的な経験則を魚の保存に当てはめた
概算のイメージであり、魚種・個体差・鮮度状態によって実際の数値は変動します。
あくまで「温度を下げることが、いかに鮮度維持に効くか」を
理解するための目安として捉えてください。
一覧表で比較
| 比較項目 | 常温海水 | 海水氷(潮氷) |
|---|---|---|
| 主な役割 | 血抜き(血液の排出) | 冷却(細菌増殖・自己消化の抑制) |
| 温度の目安 | 10〜28℃程度(季節により変動) | 0℃前後、条件により氷点下も |
| 血抜きへの効果 | 心臓のポンプ作用を妨げず良好 | 血管が収縮し血が抜けにくくなる場合がある |
| 冷却効果 | 低い(気温・海水温に近いため) | 高い(凝固点降下により低温を維持) |
| 冷えムラ | 出やすい | 空気中より少ない(水の熱伝導率は空気の約20倍) |
| 向いている工程 | エラを切った直後の血抜き工程 | 血抜き後の保冷・持ち帰り工程 |
| 長時間浸けた場合のリスク | 常温に近いため傷みが早まりやすい | 身が締まりすぎる、氷焼けのリスク |
実践的な使い分けの手順
- 活け締め(脳締め)を行う:ピックなどで即座に絶命させる
- 常温の海水でエラを切って血抜きする:3〜5分程度、水の色が赤色から透明に近づくまで浸ける
- 血抜きが終わったら海水氷(潮氷)へ移す:ここで一気に冷却し、鮮度の劣化スピードを抑える
- 持ち帰る際は潮氷の水を抜く:水分を含んだままだと氷焼けや水っぽさの原因になるため、移動前に水を抜き、ビニール袋やタオルで包むとよい
なお、氷点下に近い潮氷にいきなり魚を浸けると血管が収縮し
血が抜けにくくなるという指摘もあるため、
「先に常温海水で血抜き→その後に潮氷で冷却」という順番を守ることがポイントです。
まとめ:海水は血抜き、海水氷は冷却。順番が鍵
常温海水と海水氷は、どちらが優れているかという二択ではなく、
「血抜き」と「冷却」という異なる役割を担うパートナーです。
まず常温の海水でしっかり血を抜き、そのあとで海水氷に移して素早く冷やす。
この順番を守ることで、血抜きの効果と鮮度保持の効果を
両方とも最大限に引き出すことができます。


