市場に出回らない「幻の魚」ヒラスズキ。なぜ極上なのか、なぜ売っていないのか

釣り人の間では「磯の王者」として君臨するヒラスズキ。

その姿は銀鱗に輝き、荒磯のサラシ(白泡)の中でしか出会えない特別な存在です。

一方で、スーパーや一般的な鮮魚店でその姿を見かけることはまずありません。

名前はスズキと似ていますが、その価値と扱いは「別次元」と言っても過言ではありません。

なぜこれほど美味しい魚が市場に出回らないのか。

なぜ「幻の高級魚」として扱われるのか。

その決定的な理由と、食通を唸らせる味の秘密を深堀りします。

理由1:漁師泣かせの「生息域」

ヒラスズキが市場に出ない最大の理由は、彼らが住んでいる場所にあります。

彼らの住処は、外洋に面した荒々しい磯場です。

波が岩に打ち付け、真っ白なサラシが広がるような危険な場所を好みます。

このような場所では、一般的な漁業で使われる「網」が使えません。

定置網や巻き網を入れれば、岩礁で網がズタズタに裂けてしまいます。

また、船を近づけること自体が命がけの作業となります。

つまり、効率よく大量に獲る方法が存在しないのです。

これが「市場に出回る絶対数が圧倒的に少ない」根本的な原因です。

理由2:流通に乗りにくい「捕獲方法」

網が使えない以上、ヒラスズキを獲る方法は限られます。

基本的には「一本釣り」か「突き漁」のような、個人の職人技に頼るしかありません。

大量捕獲ができないため、安定した供給が見込めないのです。

スーパーなどの量販店は、安定供給と安定価格を重視します。

いつ獲れるか分からず、獲れても数匹というヒラスズキは、流通ラインに乗せにくい商材なのです。

結果として、運良く獲れた個体は、高級料亭や一部の寿司屋へ「直行便」で運ばれていきます。

一般消費者の目に触れる前に、プロの料理人が高値で買い取ってしまうのです。

理由3:鮮度維持の難易度

ヒラスズキの価値を最大限に引き出すには、釣った直後の処理が命です。

暴れまわるヒラスズキは、死後硬直が早く、ケアを怠るとすぐに味が落ちてしまいます。

磯場という足場の悪い過酷な環境で、即座に「脳締め」「血抜き」「神経締め」を行える漁師や釣り人は限られます。

網で獲られたスズキと、磯で一本釣りされて丁寧に締められたヒラスズキ。

この処理の差が、後の「価格」と「味」に天と地ほどの差を生みます。

適切な処理がされたヒラスズキは、キロ単価で数千円、時には万単位の値がつくことも珍しくありません。

幻と呼ばれる所以:圧倒的な「食味」の違い

希少だから高い、というだけではありません。 ヒラスズキが幻と崇められる本当の理由は、その「味」にあります。

普通のスズキ(マルスズキ)と比較すると、その差は歴然です。

1. 臭みが皆無

マルスズキは内湾や河口に住むため、個体によっては泥臭さや川魚特有の匂いを持つことがあります。

しかし、ヒラスズキは潮通しの良い外洋の綺麗な水で育ちます。

そのため、身にも内臓にも臭みが一切ありません。 洗練されたクリアな旨味だけが凝縮されています。

2. 筋肉質な歯ごたえ

荒波にもまれて泳ぎ続けているため、筋肉の質が違います。

身は引き締まり、モチモチとした強い弾力を持っています。

包丁を押し返すようなその質感は、養殖魚では絶対に味わえません。

3. 上品で甘い脂

冬から春にかけての旬のヒラスズキは、腹に分厚い脂を蓄えます。

この脂が非常に上品で、しつこさがありません。 噛むほどに甘みが広がり、飲み込んだ後も余韻が残ります。

結論:釣り人だけの特権

市場に出回らない理由。 それは「獲るのが命がけ」で「効率が悪く」、「あまりに美味すぎるから」です。

お金を出しても買えないこの魚を、新鮮な状態で食べることができる。

これこそが、磯に立つ釣り人に許された最大の特権と言えるでしょう。

もしこの「幻」を手にする機会があれば、その一口を心ゆくまで堪能してください。

その味は、過酷な磯歩きの疲れを吹き飛ばすだけの価値が間違いなくあります。

 

タイトルとURLをコピーしました