春の堤防で、水面をキラキラと波立たせる銀色の魚。
細長く、優雅に泳ぐその姿は「海の貴婦人」とも呼ばれます。
今回の主役は「サヨリ」。
美しい見た目とは裏腹に、「腹黒い」という不名誉なレッテルを貼られている魚でもあります。
知っているようで知らない、サヨリの秘密と魅力を余すことなく解説しましょう。
1. サヨリの生態と特徴
サヨリは、ダツ目サヨリ科に属する魚です。
最大の特徴は、なんといってもあの「受け口」。
下顎(したあご)だけが突き出し、その先端が紅を差したように赤くなっています。
これは、水面直下を泳ぐ動物プランクトンを、下からすくい上げて食べるために進化した形です。
寿命は非常に短く、約2年ほど。
短い一生を、常に水面付近で泳ぎ続け、必死に命を繋いでいる儚い魚なのです。
2. なぜ「腹黒い」と言われるのか?
「見かけによらず腹黒い人」のことを、サヨリに例えることがあります。
これは、捌いた時にお腹の中(腹膜)が真っ黒だからです。
しかし、これにはちゃんとした科学的な理由があります。
サヨリは太陽光が降り注ぐ「水面」で生活しています。
食べたプランクトンが、お腹の中で紫外線と反応して腐敗するのを防ぐため、腹膜を黒くして紫外線を遮断しているのです。
つまり、あの黒さは「日傘」の役割。
決して性格が悪いわけではなく、生きるための知恵なのです。
3. 「エンピツ」から「カンヌキ」へ。呼び名が変わる出世魚?
サヨリは大きさによって、市場での呼び名と価値がガラリと変わります。
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エンピツ(鉛筆):春先に釣れる20cm以下の若魚。群れで行動し、数釣りが楽しめます。
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カンヌキ(閂):30cm〜40cmを超える大型魚。昔の門の扉を閉める棒(かんぬき)に似ていることから。
春は「エンピツ」サイズの数釣りシーズン。
晩秋から冬は、脂が乗った巨大な「カンヌキ」が狙えるシーズンです。
4. 驚くべき市場価値
スーパーで見かけるサヨリは、比較的安価かもしれません。
しかし、鮮度の良い「カンヌキ」サイズとなると話は別です。
高級寿司ネタとして扱われ、1匹で数千円の値がつくことも珍しくありません。
特に「活け締め」された大型サヨリは、ヒラメやタイにも負けない超高級魚としての地位を確立しています。
5. 絶品!サヨリの味わいと食べ方
サヨリの身は、透き通るような美しい白身です。
クセが全くなく、上品な甘みと適度な歯ごたえがあります。
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刺身(糸造り):定番中の定番。大葉や生姜と一緒に。黒い腹膜は苦味があるので、必ず歯ブラシなどで綺麗に洗い流すのがコツです。
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天ぷら:熱を通すと、身がフワッフワになります。キスの天ぷらより上品だという食通も多いです。
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干物:水分を抜くことで、淡白な身に旨味が凝縮されます。軽く炙って酒の肴にすれば、これ以上のものはありません。
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お吸い物:椀種(わんだね)にすると、結び昆布のように美しく、出汁に上品な風味が加わります。
まとめ:春を味わうならサヨリを釣ろう
見た目の美しさ、釣る楽しさ、そして食べた時の感動。
サヨリは、釣り人に「春の訪れ」と「食の喜び」を同時に運んでくれる貴重なターゲットです。
もし釣れたら、お腹が黒くても嫌わないであげてください。
丁寧に洗ってあげれば、その下には宝石のような白身が待っています。

